年金の給付を抑制する「マクロ経済スライド」の存在が…

ただし、新規裁定者も既裁定者も、それぞれ名目手取り賃金変動率、物価変動率の数値をそのまま改定に使うかというと、そうではありません。

年金制度を将来に向け持続可能なものとするため、被保険者数や平均余命の伸びを勘案した「マクロ経済スライド」によって調整されるためです。

マクロ経済スライドについては過去記事(年金の誤解を斬る!第3回 「年金は破綻する」と嘆く人は知らない―年金を“持続可能”にする驚きのカラクリ)でも取り上げていますが、物価や賃金の伸びがあっても、スライド調整率によって給付を抑制させる仕組みです。

スライド調整率は、具体的には「公的年金被保険者総数の変動率+平均余命の伸び率」で算出されます。その年の年金額の改定において、マクロ経済スライド適用する前にすでにマイナス改定となる場合は、そこからさらにスライド調整率による調整はありません。ただし、2018年度以降は、未調整となったままのスライド調整率が翌年度以降に繰り越されて調整されるルールがあります(キャリーオーバー制度)。

実際の2023年度のスライド調整率は、公的年金被保険者総数の変動率が±0%、平均余命の伸び率-0.3%(定率)を反映した結果、-0.3%となっています。2023年度の年金額改定において、新規裁定者も既裁定者も、まずこの-0.3%分が調整されます。

そして、これだけでなく、2021年度と2022年度に未調整だったため繰り越されていた調整率が2021年度分は-0.1%、2022年度分は-0.2%あるため、新規裁定者も既裁定者も未調整分の合計-0.3%がさらに調整されます。

その結果、2023年度の年金額については、マクロ経済スライドによって合計-0.6%分調整されます。

簡略化した計算式でまとめますと、

新規裁定者:+2.8%(名目手取り賃金変動率)-0.6%=+2.2%
既裁定者:+2.5%(物価変動率)-0.6%=+1.9%

となり、2023年度のアップ率が算出されたのです。

年金の給付額とは、物価や現役世代の賃金状況を“ある程度”は反映してもらえるものの、実際の物価の上昇に対して、“追い付いてはいない”仕組みがご理解いただけると思います。よくメディアなどで「実質目減り」という表現を使いますが、まさにこのことを言っています。