アメリカでは老後資金づくりを“強く”後押しする法律が誕生
根深いこの問題に取り組むために、2019年にThe Setting Every Community Up for Retirement Enhancement (SECURE) 法という法律ができました。Every Community、つまりアメリカの潤っている層からそうでない層まですべてのコミュニティに置いて、リタイヤメント資金づくりを促進し、よりSECURE(たしかな)将来をつくることを後押しする法律です。今回、2022年12月には、この法律をさらにアップグレードするためにSECURE 2.0という法律が追加されました。
アメリカには、職場の確定拠出制度である401(k)や個人リタイヤメント口座IRAなどが整備されていますが、それがEvery Community=すべての人々に浸透しているかというと、実は大きな格差が存在しています。枠組みが与えられると、それを調べて学び最大限に活用する人々もいれば、枠組みがあっても全く使わないで終わってしまう人々もいます。
今回のSECURE2.0では、そのような「枠があっても使っていない人」を取り込む施策も盛り込まれています。401(k)の「自動参加」をルール化するものです。一定の小企業を除きすべての企業は、401(k)に雇用者を自動参加させ、給与の3~10%を自動積み立てさせなくてはならなくなります(オプションではなく絶対に!)。もちろん本人がオプトアウトして参加を拒否することはできますが、それがない限り、企業は必ず401(k)に自動参加・自動積み立てをする必要があるのです。
またマッチアップ強化も盛り込まれています。401(k)ではマッチアップ制度といって、本人が積み立てをすると、それに応じて会社がマッチアップでいくらかを積み立ててくれる制度が浸透しています。これは労働者にとってはまさにフリーマネー(ただでもらえるお金)なので利用しない手はないのですが、これさえも利用をしていないグループが残っています。
それはどのような人かというと、老後への意識が低く401(k)に参加しようと思わないような若者や、給料が低かったりスチューデントローン返済があるので401(k)に積み立てる余裕のない人々です。
今回の法改正では、たとえ401(k)に積み立てを行わなくても、本人がスチューデントローンを返済していれば、それをベースに会社がマッチアップ拠出をできるようになります。さらには、パートタイム労働者が401(k)に参加しやすいように法改正もなされるので、限られた時間しか働けない人でも老後資金準備ができるようになります。
これで、意識の低い層や、積み立てが難しかった層にも、老後資金準備が少しずつ浸透していくのではないかと期待できます。日本でも「整備しておしまい」ではなく、このような後押しが必要になるかもしれませんね。