資産運用の普及で何を解決したいのかが見えにくい
でも、もっと気になっているのは、今回の改革が手段と目的を履き違えているように感じられる点です。国全体の観点からは、米英と比べて個人金融資産が十分に投資に回っておらず、結果として経済の停滞、個人の総所得の伸び悩みにつながっており、その改善のために資産運用を普及させたいとの考えはその通りだと思います。
とはいえ、個人にとってはそんな大きな話よりも、「資産運用をすることで“私の”どんな悩み・課題が解決するのか」という視点が必要でしょう。NISAでは投資目的を問わない形になっており、自由度が高く使い勝手がよいとの意見もありますが、その拡大によって国民のどんな悩み・課題が解決するのかというメッセージが弱いように感じます。資産運用はあくまで手段であり、目的が重要ですが、今回のNISA改革ではそこが弱いと思うのです。
多くの国民は少子高齢化による公的年金の弱体化から老後の生活に対して不安を持っています。したがって、「今から自分自身で老後資金の準備をしましょう、そのために国もサポートします」とのメッセージを前面に出しつつDC改革を進めるほうが行動につながりやすいのではないでしょうか。その点から、投資目的を問わないNISAよりも老後資金にフォーカスしているDC改革の優先順位のほうが高かったのではないかと考えるわけです。
今回は、少し斜に構えてNISA改革の不十分な点についてシニア層の視点から考察しました。また、現役世代のサポートという点からも、NISA改革よりもDC改革が先だったのではないかとお話ししました。一部、新NISAに否定的な意見を述べましたが、それはより良くするためという観点から述べたのであって、今回の改革が悪いと言うつもりはありません。むしろ今回の改革は近年稀にみる大改革で、特に資産形成層にとってはとても効果的な改革であると考えています。
老後の生活を守るため、インフレから資産を防御するため等の目的を設定したうえで、ぜひとも新NISAをフル活用して資産形成に励んでいただければと思います。
※当コラムは個人の見解であって、所属組織を代表するものではありません。