新NISAはシニア層のニーズを満たさない?
なぜ、私が新NISAはシニア層にはそれほどメリットがないかもしれないと考えるのか、理由は主に3点挙げられます。
第1に、最大360万円の年間投資枠をすべて活用する場合、120万円は必ず積立投資をしなくてはならないという点です。完全にリタイアした後のシニア層の多くは年金以外の収入がなくなるため、積立をしろと言われても積み立てる原資がありません。
一方、リタイアまでに相応の資産を形成していると思われるので、合計360万円の年間投資枠を、積立でなくてもフルで活用できる仕組みを残しておくべきだったのではないでしょうか。最近はシニア層であっても積立投資をすべきとの意見もありますが、資産を持っているにもかかわらず積立投資をするということは、元手が現預金だった場合、投資に回るまでの間、その資産は現預金等で保有されていることになります。特にインフレ下において資産を現預金に寝かせておくと、実質的に資産価値が目減りすることになりますから、合理的な投資行動とは言えません。すでに資産があって投資をするつもりであれば、なるべく早めに投資をするほうがよいと私は考えます。
第2に、毎月分配型の投資信託が新NISAの成長投資枠の対象から外れる可能性が高いという点です。確かに毎月分配型投信は複利効果が働かず、資産形成には適さないかもしれませんが、シニア層には資産運用から分配金という形で運用成果を毎月受け取りたいというニーズは間違いなくあると思います(もちろん、いわゆる“タコ配”でないことが前提です)。
このような毎月、分配金(インカム)を受け取りたいシニア層は、今後は隔月・四半期ごとなど分配金の頻度が少ない投信に投資先を変えたり、NISAではなく課税口座で投資したりするしか選択肢がなくなります。日本の公的年金の給付額が「マクロ経済スライド」によって実質的に低下していく中で、現役世代の資産形成のサポートのみならず、シニア層が公的年金を補うインカムを確保できる仕組みを考えるのも大事なことだと考えます。
3つ目は、毎月分配型投信以外にも、新NISAの対象でなくなる投資信託が増える可能性が高く、これまでNISAで投資できていたものが、今後はできなくなる場合もある点です。これは投資家にとってみると選択肢が狭まることを意味しますので、デメリットと言えるでしょう。すでに投資をしているシニア層には特に影響が大きいと思います。
また、このような制約は運用会社や販売会社の行動を規定してしまいます。結果として、今後はシンプルな仕組みの投資信託のみがNISA利用者に提供され、効率的な運用、超過収益の追求等の観点からデリバティブなどを活用した高度な仕組みの投資信託は課税口座中心の富裕層にしか提供されないという二極化が進む可能性はあると思います。