昨年末に大幅に拡充されることが発表されNISAに注目が集まっています。投資を通じた資産形成をする側として運用益が非課税となる制度の恒久化や積み立てできる枠が従来の数倍にもなることは喜ばしい限りです。そうなるとiDeCoの魅力が小さくなるかというと、新しく拡充されたNISAだからこそ、かえって2つの特長が際立つようになりました。今回はそれをご紹介したいと思います。

60歳まで引き出せないこと=デメリットではない

iDeCoのデメリットとしてよく語られてきたこの点は、老後資産形成を目的とする資産形成制度としての制約です。利用する上では、この点を意識して積立額を決める必要があります。一方で、私はこの制約を、“ちょっとまとまったお金”を老後資金以外に使ってしまうことがないメリットとして長年紹介してきました。

そして、2024年からのNISAとiDeCoの違いを考える上で気づいたのが、「運用」という側面でのメリットでした。新しいNISAでは、年間投資枠以外に非課税保有限度額という考え方が導入されます。購入金額ベースで1800万円まで非課税運用できるというものです。この非課税保有限度額は、保有資産を売却すると、翌年には売約した分の枠が復活して新たな資金をNISAに投入できます。

この非課税保有限度額ができたことで、今のNISAやつみたてNISAで悩ましいと言われていた商品乗り換えの壁が解消されます。購入した後に、同様の商品性でコストの安いインデックス投資信託が新たに発売されるというようなことがこの数年にはありました。そんな時に乗り換えたくても、売却すると非課税運用の枠組みから出ることになります。それは、残っている非課税期間保有し続けて大きく値上がりした場合に課税されないというメリットを捨てることになりますから、コストが気になりながらも高いコストの投資信託を保有し続けるという事態が起きていました。それが新しいNISAでは躊躇なく乗り換えできるようになるわけですから、とても良い仕組みだと高く評価されています。

ただ私は、売却に対して心理的な壁がなくなることで少し利益が出たら「売る」という行為がしやすくなった点が気になっています。人間の脳は太古の昔から、目の前のモノ、すぐに手に入るものの価値を大きく評価するようにできていますから、長期保有するには、心の誘惑に打ち勝つ困難が伴います。実際に、一般NISAでは2021年12月末の残高の23%にあたる2.3兆円(ロールオーバー除く)が2021年中に売却されています。