今すぐ手にできないことが不合理な行動を防ぐ
一方、iDeCoは非課税のまま運用商品を変更することが可能です。しかし、売買ができるからと言って、短期に無用な売買がなされてきたかというと、そんなことはありません。不思議ですよね。その背景に「60歳まで引き出せない」という引き出しの制約がありそうです。利益を出してもそれが「すぐには手に入らない」ということから、少額の利益を確保することへの執着が起きにくく、結果的に売買する動きが起きにくいのです。運用状況への無関心ともいえますが、このことによって長期に保有することにつながり、大きなリターンを得やすくなります。
そして、利益が出ている場面だけでなく、損をしている場面でも、「手に入れられるのはずっと先のことだから」とやや現実逃避する力を発揮します。人間にとって「損」というのはとても嫌な事象なので目の前から消し去りたくなる衝動に駆られます。
さらにコロナショックやリーマンショックのような暴落が起きると世の中全体が悲観に覆われ「今売らないともっと値下がりしてもっと損が大きくなってしまうのではないか」という恐怖が襲いかかってきます。こうなるとその恐怖から逃げ出したい一心で「損をするとわかっているのに売る」という不合理な行動をしがちです。しかし、こういういった衝動的な売却も「今、受け取るのではないのだから」と現実逃避する気持ちが心にのしかかる不安や恐怖を和らげてくれて、「そこまでするの?」と思いとどまらせてくれます。
実際に、リーマンショックの時にiDeCoの企業版である企業型確定拠出年金では、6割以上の方が元本割れしていたにもかかわらず、売却という行動をとった人は1割にも満たない状況でした。運用状況への無関心がいい意味で「長期投資」を実行することにつながりました。そして、「年金情報」によれば、2022年3月末では加入者の半数以上が年利回り3パーセント、3分の1以上が年利回り5%を達成できているそうです。iDeCo加入者の利回り状況については公表されているデータがないので正確なところが分かりませんが、企業型確定拠出年金に比べてより積極的な資産配分をしている状況から推察するともっと高い利回りが実現できているのではないでしょうか?
「つみたて投資」に加えて、「長期投資」しやすい仕組みがiDeCoの魅力と言えます。