誰が「顧客の立場に立った」アドバイザーになるのか

FDアドバイザーの業務内容として検討されている役割はNISAの口座開設から始まり家計管理の支援やマネープランの作成、ポートフォリオの提案、さらに、つみたてNISA対象商品の範囲内での銘柄の推奨と、国民の資産形成を全般的にカバーするものだ。多様かつ重要な役割を担うだけに、「顧客の立場に立っていない」人材が手を出すと深刻な事態が発生する恐れがある。では、誰が「顧客の立場に立った」アドバイザーにふさわしいのか。

顧客本位タスクフォースでの議論を追っていくと、販売会社が認められる可能性は今のところ小さい。運用会社など顧客以外から手数料等を受け取る業態には利益相反の懸念があるからだ。

当局は当初、FDアドバイザーの候補として独立系フィナンシャルアドバイザー(IFA)を想定していた節がある。販社から独立している形態の彼らがノーロードに限定されたつみたてNISAの商品を扱えば、顧客と利益相反が起きる余地が小さいためだ。

しかし、この連載の初回でも取り上げた仕組債の問題がその目論見を打ち砕いた。大手のIFAの中で、仕組債の販売で問題とされるケースが散見されたことが原因だ。ていねいにアドバイスを提供していたIFAには気の毒な話だが、当局の不信感は強く、FDアドバイザーの適性どころか資産運用ビジネスの担い手として「IFAに失望した」といった声まである。

他方、金融機関に属せず、商品販売もしないオーソドックスなFPは少数で、しかも保険の見直しや税金対策などが主な仕事で、「運用商品に詳しい人材はさらに限られる」(FP教育機関)という。

結局、問題は振り出しに戻って既存の販社からFDアドバイザーを育成する線で落ち着くかと思われたが、官邸から待ったがかかった。中でもこの問題に強いこだわりを持つ、前述の木原官房副長官が首を縦に振らないとも言われている。

同氏は1993年に旧大蔵省に入省し、最初の配属が証券局。その後、英国財務省に出向しており、「NISAのモデルである英国のISAに精通している」との自負を持つ。同国でアドバイザーが顧客以外から報酬を得ることを禁じているように、リスクを取った資産形成に国民を導くには、「国内にも中立的なアドバイザーが必要」と同氏は考えているようだ。

顧客以外から報酬を受け取らず、運用商品も販売しないビジネスモデルならば、利益相反は起きにくく顧客の安心感は大きい。だが、現実には見当たらない。そうした導き手をこれから育てるのか。あるいは組織内に何らかの規制を設けて販社の参入も認めるのか。

官邸の言い分は理想としては理解できるが、条件に合う業態が存在しないのでは、資産形成の推進役を欠くことになる。FDアドバイザーが「絵に描いた餅」にならない決着を期待したい。

執筆/霞が関調査班・みさき 透

新聞や雑誌などで株式相場や金融機関、金融庁や財務省などの霞が関の官庁を取材。現在は資産運用ビジネスの調査・取材などを中心に活動。官と民との意思疎通、情報交換を促進する取り組みにも携わる。