市場の変調時に求められるのは、市場の変動に対処するための資産分散、時間分散などポートフォリオ運用の基本的な仕組みを正しく伝えることなど、基本的なコミュニケーション力ではないだろうか。市場の変化は事前に誰にも予測できない、資産形成には長期の視点が欠かせないなど、当たり前の事実、決して面白くない事実を伝え、それでも顧客の関心をつなぎ留め、さらに、資産運用に踏み出す行動を促さなければならない。そのために販売会社が運用会社に求めるのは、「ニーズや課題を踏まえた対応をしてくれる」(本部:79.7%、支店:72.5%)、「商品・マーケットの知識がある」(本部:75.5%、支店:76.0%)という客観的なデータや情報の提供という運用のプロとしての能力はもちろんのこと、そこに加えて、より基本的な顧客対応力をバックアップしてくれる仕組みにも波及している。それだけ、顧客とのコミュニケーションに難しさを感じているのだろう。

変化を捉えて進化する機会とする

投信のマーケティングの現場では、市場の変動は常に起こり得る事態だ。2021年12月まで過去10年以上にわたって、「米国の成長株」への投資を勧めることによって、半年や1年後には投資開始を決断できなかったことを後悔させるほどの資産格差を顧客に実感させることができる時代が続いた。顧客にするアドバイスは、「投資を始め、そして、それを継続すること」という極めてシンプルなものだった。そのシンプルなアドバイスに従っているだけで、顧客は相応の収益を得ることもできた。

ところが、そのような安易な世界は、2008年の世界金融危機(リーマン・ショック)を契機にして始まった大規模な金融緩和の時代が続いていたためだった。2022年に米FRBが1年間で7回、合計4.25%という急速で大幅な利上げを実施したことによって、超低金利の時代が終わってしまった。リスク資産を購入してしばらく待てば、資産価値が上がるという時代は終わり、市場環境を考えて環境にふさわし金融商品を選択することによって収益をあげるという、当たり前の市場環境に変わってしまった。

そのような市場環境においてアドバイザーに求められるのは、高度なコミュニケーション能力であり、また、社内のリソースをフル活用して顧客の求めるニーズに応えることを実現する力だ。運用会社のスタッフに求められているスキルは、そのまま販売会社のスタッフにも求められているスキルともいえる。