今回は、最終受益者としてエンゲージメントするために個人として何ができるかを考えてみたいと思います。個人の立場というのは、投資家にもなれるのですが、消費者であり、一市民であり、さらに、会社の従業員であったり、取引先になったりと、「日本の上場企業」とさまざまな関わりを持っているのです。
あなたが企業と対話するとき、何ができるか
対話ということを難しく考えすぎず、それぞれの立場にあった行動をとることで、意見表明になると考えます。例えば、環境に負荷をかけている会社や人権を軽視した製造現場を運営している会社の製品を買わない(いわゆる非買運動)は、消費者としての意見表明になります。
また、従業員として、企業の労働者の扱いに疑問がある場合、「従業員アクティビズム」と言って、会社に対して待遇改善を求める運動もあります。これは、パンデミックを背景に米国でも話題になりました。有名なのはGoogleを傘下に持つアルファベットに対して、労働組合が立ち上がったことです。組織を立ち上げないまでも、従業員が企業に積極的に働きかける動きは、企業も無視できないレベルになってきました。それ以前にもアマゾンにおいて倉庫スタッフは生活賃金すら守られていない状況に対して声を挙げたことで、会社側が賃金を引き上げました。
最終受益者としては、実際に年金の受給者として声をあげることが、年金資産の運用に影響を及ぼすことになります。 米国のカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS、カルパース)や カルフォルニア州教職員退職年金基金(CalSTARS、カルスターズ)は全米で1、2位の資産規模を有する公的年金基金で、これまでも気候変動への対応を投資先企業にも強く求めてきました。これは、年金基金自身の哲学でもある一方、年金の掛け金を拠出して、ゆくゆくは年金の受給者となるカリフォルニア州の職員や教員が、自分たちの年金がどのように運用されるかに対して意見を述べているからです。
2018年にサンフランシスコで開かれた世界最大の責任投資推進団体である国連責任投資原則(PRI)の年次カンファレンスに私も参加しましたが、そこではこのような公的年金が、いかにして最終受益者から監視されているか、それに対して基金としてどのように対応しているかの生の声を聴くことができました。ここではインベストメントチェーンの説明責任の連鎖がきちんと機能しているのだ、という印象を持ったことを鮮明に覚えています。