世界的な物価予想は困難に。インフレリスクが高まる可能性も
ちなみに1980年時点では、賃上げに当たって重視した要素を「企業業績」、「世間相場」、「労使関係の安定」、「雇用の維持」、「労働力の確保・定着」、「物価の動向」という6つで見た場合、1980年当時、「物価の上昇」は「企業業績」、「世間相場」に次いで3番目に高かったのですが、今は最も低くなっています。
こうしたことから早川氏は、来年の春闘賃上げ率は3%程度であるとしながらも、「1.8%程度の定期昇給部分を除くと1%程度であり、2%インフレが持続するには明らかに力不足である」とし、来年の物価上昇率は1%程度に低下していくのが標準シナリオであるとしています。
ただ、それでもなお早川氏は、「2%超のインフレが続くことはあり得ないと断定するには慎重であるべき」とも書いています。理由として、FRBが2021年にインフレについて一時的と判断したことが結果的に覆されたことなどを含めて、世界的に物価予測が困難化していることを挙げています。これを世界の経済学界・中央銀行界では、「インフレ動学の不確実性が高まったと理解されているということです。
つまり一般的に考えれば、日本において3%台のインフレが続くとは考えられないものの、インフレ動学の不確実性が高まったことにより、この先、物価上昇率が落ち着くと見るのは早計だということなのです。だとしたら、私たちは将来、さらにインフレリスクが高まることも考慮したうえで、資産運用のポートフォリオを考えていく必要があります。
まず、インフレが進むとしたら、自分のポートフォリオの現金比率を見直す必要があります。2022年6月末の個人金融資産は2007兆円ですが、このうち54.9%の1102兆円が現預金です。これがそのまま一個人が持つ資産ポートフォリオに当てはまるとは思いませんが、恐らく大半を現預金で保有している人は少なくないでしょう。
ちなみに円定期預金の利率は、物価が年3.7%上昇したにも関わらず、年0.002%程度です。限りなく0%に近い水準で推移しています。つまり円で預金している人は、この1年間で資産が約3.7%も目減りしているのです。この先、物価水準が下がらなければ、現預金のみで資産ポートフォリオを構築している人は、着実に資産価値が目減りしていくのです。まさにインフレリスクの顕在化です。