米国の動画配信サービス市場では、サブスクリプション(定額料金)型のビジネスが大きな潮目を迎えている。米調査企業Antennaによると、2022年第2四半期における米国市場の新規サービス加入者数は前四半期比で+1.2%。これは過去22四半期中で最低の成長率だ。同調査結果はコロナ下の特需がピークアウトしたことなど、市場の様々な懸念が現実化したものといえるだろう。

こうした状況を打破すべく、同サービス大手Netflixが広告付きの低価格プランを打ち出すなど、業界内で新たな動きが相次いでいる。今回は変革の機運が見られる、米国における動画サブスクリプションサービスの動向を紹介する。

インフレによる家計圧迫も動画サブスクの懸念材料

スマートフォンなどのデジタル端末の普及もあって、インターネットユーザーの増加とともに成長を続けてきたサブスクリプション型の動画配信サービス。米国における加入者ベースの業界シェア上位には「Netflix」「Hulu」「Disney+」といった日本でもよく知られたサービスが名を連ねている。

Netflixはオリジナルドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』などを皮切りに、自社制作コンテンツのヒットを追い風として急成長を遂げた業界のトップランナーだ。一方で、HuluとDisney+はともに、世界的エンターテインメント企業であるDisneyの傘下として事業を拡大してきた。

そのほかに米国では、Eコマース大手Amazonの「Amazon Prime Video」、映画配給の老舗Paramount社の「Paramount+」、世界一のテック企業Apple社が手がける「AppleTV+」、海外ドラマの大作「ゲームオブ・スローンズ」などで知られる「HBO Max」なども人気を集めている。

米国におけるサブスクリプション型の動画配信市場は、コロナ下による在宅時間増加の流れも受けて安定的に成長。Antennaの調べでは、ここ1、2年は加入者ベースで前四半期比3〜7%の増加率で推移してきた。しかし冒頭でも述べた通り、直近では1%台という低成長に落ち込んでいる。

市場停滞の象徴ともいえるのが最大手のひとつ、Netflixの業績不振だ。同社は2022年第1四半期決算において、過去10年で初めて会員数が減少。続く同年第2四半期決算でも会員数はマイナスに落ち込み、株価が年初来から一時60%以上ダウンした。

成長鈍化の背景としてはコロナ下の特需が落ち着いたことや、過去数度にわたる月額料金の値上げなどが指摘されている。また、米国で著しいインフレ影響も要因の一つだろう。日用品価格の高騰によって消費者の家計が圧迫されれば、生活に必ずしも要るわけではないエンターテインメントへの支出は、削減対象となりやすいからだ。

直近の2022年第3四半期決算は、主にアジア市場の開拓が功を奏した形で会員数が3四半期ぶりに増加へ転じている。しかし、北米における会員数の伸び悩みやドル高の影響で売上高は前四半期の水準を下回るなど、依然として不安定な状況は改善されていない。

このように市場に様々な懸念材料が残るなか、業界各社はさらなる成長を果たすべく新たな動きを見せている。そのトレンドを順番に見ていこう。