米国の景気動向を示す指数を紹介

米国の経済指標は消費や雇用など、様々なカテゴリが存在する。

たとえば「雇用が安定するから消費が活発になる」というようにそれぞれ関係性はあるものの、すべてがプラスないしはマイナスといったように同じ方向で推移するとは限らない。そのため、定期的に複数の指標をチェックしておくのが理想だ。

では、どのような経済指標があるのか1つずつ紹介していこう。

インフレ率の重要指標である「消費者物価指数(CPI)」

消費者物価指数はCPI(Consumer Price Index)とも呼ばれ、一般消費者世帯が購入する商品やサービスの、総合的な価格の動きを指数化したもの。米労働省労働統計局が毎月中旬に公表する米国のCPIは「米CPI」とも略され、前月比または前年同月比の値が注目される。

この指数が高すぎると、物価高から一般消費者の購買力が下がるため景気停滞が懸念される。そこで、中央銀行であるFRBは通貨供給量を減らす目的で政策金利(短期金利)を引き上げ、インフレ率の抑制ひいては物価の安定を図る。

このような理由から、米国の消費者物価指数はFRBの金利政策にインパクトを与える指標としてみられている。2022年8月の消費者物価指数は、前年同月比で8.3%と市場予測8.1%を超える大幅上昇を示し、そのことを受けた多くの投資家は9月のFOMC開催前から0.75%以上の金利引き上げを事前に予想していた。

また、株式市場への影響を踏まえても、投資家にとってこの指標は特に注目度が高い。

金利と株価の関係は先述の通りだが、もし利上げが今後も継続するとの見方が強くなれば、景気拡大にブレーキをかける懸念からリスクオフ(資金回収)の流れが起きる。株式市場から資金が引き上げられ、つまり株安となる可能性も高まる。

この市場の思惑を反映するかのように、9月21日に利上げ発表を受けてダウ平均株価は500ドルを超える大幅な値下がりとなった。しかし、実は9月13日に消費者物価指数の上昇が公表された時点ですでに利上げ継続の見方が強まり、当日のダウ平均株価は1200ドルを超える急落となっていたのだ。

このように株価の先行きを分析するための指標としても、消費者物価指数は非常に重要視されている。

「米国雇用統計」は個人消費を読み取るベースに

米国雇用統計はその名の通りアメリカの雇用情勢に関する統計で、失業者や就業者の人数などが対象となる。労働省労働統計局が毎月第1金曜日に公表する。

指標は計10数項目にわたり、「失業率」「非農業部門雇用者数」「週労働時間」「平均時給」「建設業就業者数」「製造業就業者数」「金融機関就業者数」など様々だ。

投資家の間では、労働力人口(16歳以上の働く意志を持つ人達)のうち失業者の占める割合を示す「失業率」と、農業部門を除く産業分野の民間企業や政府機関に雇用されている人の数を表す「非農業部門雇用者数」の注目度が特に高い。

FRBは金融政策において、この雇用統計も重要視している。雇用統計が改善されれば、個人消費が上向いて景気拡大につながることからインフレ率の上昇を予想する。一方、雇用統計が悪化すれば、景気後退を見据えてインフレ率の低下を見込む。

そのため、金利の引き上げ/引き下げの判断材料のひとつとして、この雇用統計が非常に重要な指標となっているわけだ。

足元の米労働市場は堅調だ。2022年9月2日に発表された8月の雇用統計では、失業率は低水準の3.7%にとどまり、賃金も安定して上昇を続けている。背景には、新型コロナウイルスによる影響で失職した後の再就職に慎重な人が増え、企業側の労働力需要が過多になっている状況がある。

なお、人手不足を受けた企業が賃上げを実施すれば、それによって物価が押し上げられ、さらなる金利引き上げへの影響も懸念される。これらの流れから、投資家から引き続き動向が注目されている。

「小売売上高」からは景気による個人消費の変化がわかる

小売売上高は百貨店やスーパーマーケット、コンビニなどの小売業の売上高を対象とした指標。米商務省が毎月第2週に公表し、前月比で示される。

GDPの約7割が個人消費である米国では、この指標が景気の良し悪しを判断する重要な材料の一つと目されている。2022年8月の小売売上高はガソリン価格の低下が消費を下支えするかたちで0.3%の増加となったが、インフレ加速で今後の見通しは不安視されている状況だ。

前述の米国雇用統計とあわせてチェックしておくとよいだろう。

製造業の景気を表す「ISM製造業景気指数」は日銀短観と同様の指標

ISM製造業景気指数は全米供給管理協会(ISM)により毎月第1営業日に公表される、米国の製造業の景況感を示す指数のこと。300を超える製造業企業の購買担当者に対して新規受注や入荷状況といった項目に関するアンケートを実施し、その回答結果から指数を算出している。

一般的に、数値が50を上回ると景気拡大、50を下回ると景気後退と判断される。日本でも同様の指標として日銀短観があり、日米いずれも金融政策の判断材料として用いられる。

また、毎月第3営業日には「ISM非製造業景況感指数」が同様に発表され、こちらも景気の先行指標として注目されている。