NYで学んだ企業分析を徹底して投資するボトムアップ型のアプローチ
10年もの間、勤めていた会社が、こうして無くなってしまいました。当時はまだ30代の前半に差し掛かったくらいだったので、まだまだ働き続けなければなりません。幸いなことに、ロンドンやニューヨークで働いていた時の取引先である投資会社や、証券会社などから、「うちに来ないか」というオファーをたくさんいただきました。ただ、正直なところ自分としては、マーケットとは別の世界で働こうという気持ちになっていました。
理由は2つあります。
ひとつは、マーケットの世界で働き続けることに対して一抹の不安がありました。何しろニューヨークの金融市場は生き馬の目を抜くような競争社会で、いろいろな意味でマネーの論理がすべてに優先されるところがあります。このような世界で働き続けていたら、いつか人間として大事な何かを失うのではないか、という不安が何となくありました。
それともうひとつは、企業分析に対する興味が強まったことです。
ロンドンとニューヨークの2拠点で仕事をしてきましたが、実は両者の投資のアプローチは大きく異なるものでした。
ロンドンはグローバル投資が中心です。たとえば株式に投資する場合、世界中の企業に分散投資するわけですが、当時は国ごとに会計基準が違っていたため、海外の競合他社との比較が困難でした。そのため、企業のバランスシートなどを比較分析する前に、マクロ経済分析や地政学リスクなどを考慮して地域別、国別に資産配分を行う、トップダウン型のアプローチが主流でした。
これに対してニューヨークでは、当時は意外なことにグローバル投資はあまり行われておらず、専ら米国内の企業への投資が中心でした。ウォーレン・バフェット氏のように徹底して企業の中身を分析するボトムアップ型のアプローチです。
山一證券のニューヨーク時代、メリルリンチの資産運用部門にいたアナリストと親交を深めたのですが、彼の分析手法は決算短信と有価証券報告書を徹底的に読み、かつ工場や倉庫などを見学し、在庫などを把握して原価計算を行うという、ほとんど会計士のような方法で企業分析を行っていました。
そのようなアプローチがあることを知り、企業分析に興味を持つようになったのと同時に、メーカーの現場で実際にどのような原価計算が行われているのかを、自分の目で見てみたいという気持ちが強まりました。