前回に続き、ある大学にてライフプランニングの授業を受け持った際、学生の反応が印象的だったテーマを皆様にご紹介します。
そのテーマとはずばり「老後資金」。若い大学生にとっては、はるか先にある「老後」に対して、“自分事(じぶんごと)”化してもらうために授業ではどのようにアプローチしたのか、そして、授業後のアンケートではどのような声が寄せられたかをお伝えしましょう。
●前回「親にも聞いてほしい! 教育費は1000万円以上と知った、大学生の“声”」はこちら
21歳、国民年金の損得勘定に異議あり
人生の3大支出の中でも、大学生が一番イメージしづらいのが老後資金。ですから、まずは公的年金(老齢年金)とは、現役世代から高齢者への仕送りであり、障害年金や遺族年金といった保険機能も備えている、そんな仕組みを説明しました。そして、「国民年金は保険なので、損得だけで語ることはできないのですが……」と前置きしたうえで、こんな説明をしたのです。
「令和4年度の国民年金保険料は月16,590円、40年間だと約800万円になります。同じく、老齢基礎年金の満額は年777,800円ですから、ざっくりではありますが、10年と少し、年金を受け取れば保険料の元が取れますね」
あくまでも分かりやすさを優先し、“あえて”紹介した損得勘定なのですが、学生からはこんな感想が寄せられました。
「国民年金の損得勘定について800万を40年間で支払い、10年で元がとれると言っていましたが、あくまで支払も受取も令和4年の計算であるため、本当に支払った額が10年で元がとれるとは思えないです。保険料は年々上がりますし、受取額も減っていくため、“今”ではなく、“今後”に視点を置き計算してほしかったです」
この学生の感想、言葉尻を一つひとつ解きほぐすこともできますが、それはちょっと大人げないですよね(苦笑)。そこで一念奮起、「“今後”に視点を置き計算してほしかった」との要望に真摯に応えようと色々と調べてみたところ、一つの試算にたどりつきました。
■1995年生まれの人の国民年金給付負担倍率※1
(経済前提:ケースC)
・保険料負担額①:1500万円
・年金給付額②:2300万円
・倍率(②/①):1.5倍
(経済前提:ケースE)
・保険料負担額①:1300万円
・年金給付額②:2000万円
・倍率(②/①):1.5倍
(経済前提:ケースG)
・保険料負担額①:1200万円
・年金給付額②:1400万円
・倍率(②/①):1.2倍
※1 出所:厚生労働省年金局数理課「平成26年財政検証結果レポート」(第5章「2 世代間の給付と負担の関係」)
これは厚生労働省による公的年金の財政検証結果レポートからの抜粋、レポート作成時の2015年に20歳、1995年生まれの人の試算になります。経済前提は8つのシナリオのうち、真ん中辺りの2つと下から2番目、年金給付額は保険料を払い終える60歳時点の平均余命まで長生きすることを想定しています。それぞれの保険料負担額と年金給付額を、賃金上昇率で65歳時点の価格に換算※2、つまり、“今後”に視点を置き計算したものです。今後、保険料の負担は増えますが、それを上回る給付額が見込める、そんな試算になっています。
※2 正確には、さらに物価上昇率で現在価値(平成26年度時点)に割り引いた金額
もちろんこれも単なる試算、公的年金の保険機能(安心のメリット)を考慮したものではありません。ただただ、学生の声に真摯に応えたい、そんな試算としてご確認いただければと思います。機会があれば本人にも伝えたいですね。