途中経過が見えない平均リターンの考えに潜む落とし穴
「投資信託は価格変動商品なので、一概に何%で運用できるとは断定できませんが、過去の平均的なリターンは年5%程度。これを当てはめて10年後の収益をシミュレーションすると、このように預貯金に比べてはるかに高い利益が期待できます」と説明しながら比較した数字を示せば、預貯金志向の強い人でも、何となく投資信託は有利な商品だという印象を抱くでしょう。ここに落とし穴があるのです。
投資信託は常に基準価額が変動しており、かつ値上がりだけでなく値下がりすることもあります。冒頭で触れた「100万円を10年間運用したら150万円になった。10年間で50万円の利益だから、1年あたりの平均は5万円。投資金額は100万円なので、1年あたりの平均リターンは5%」という考え方は、途中経過がどうなったのかは横に置いておき、10年が経過した時点で得られた収益を、単純に年平均にしているだけです。これはただの結果論に過ぎません。
しかし、現実のマーケットの動きは、少なくとも現時点で将来がどうなるのかを予測することは出来ませんし、このような結果論を前提にして将来、これだけお金が増えているかも知れないなどと推測するのは、やや誤解を引き起こすのではないかと危惧します。
値下がりする直前と同じ水準まで値段を戻すためには、下落率を大きく上回る上昇率を必要とします。たとえば100万円の元本が▲50%のダメージを受けたとしましょう。この場合、100万円は50万円まで目減りします。
では、この50万円が100万円まで戻すためには、何パーセントの上昇率が必要でしょうか。これはもう簡単に計算できるので、敢えて計算方法を示す必要はないと思いますが、100%です。つまり下がった分に対して倍の上昇率が実現されなければ、価格は元の水準まで戻らないのです。途中経過が見えにくい年平均リターンという考え方だけをみると、下落時のダメージが都合よく隠されているともとれます。