円安が円安を呼ぶ「負のスパイラル」も懸念
国内経済を逆に悪化しかねない金融緩和策を進めるにあたって、黒田総裁は「円安が国内の輸出企業に対してプラスに働く」という理屈を強調している。
一般的に、円安が進むと輸出品の国外での価格が安くなるため、価格競争力が増して海外からの需要が拡大する。価値が相対的に上がっている外貨の獲得にもつながるので、自動車や電気機器などの輸出関連企業は、これまでの円安局面において多大な恩恵を受けてきた。
しかし、近年では円安のメリットが国内企業にとって一概に当てはまらない状況となっている。主な原因は日本企業の海外進出の動きだ。
2008年のリーマンショックでドル円相場が急速に円高へと傾いたため、為替の影響を避ける目的から、海外へと生産拠点を移す企業が相次いだ。海外で商品を生産、販売する限りでは為替の影響がないため、円安の恩恵を受ける企業が少なくなっているのだ。
国家単位で見ると、むしろ円安による交易条件の悪化が問題といえる。具体的には、他国との物・サービスの取引による損益を表す、経常収支の減少に注目が集まっている。
2022年1月の日本の経常収支は、マイナス1兆1887億円と過去2番目の赤字幅を記録。続く2月はプラス1兆6483円と黒字に持ち直したが、前年同月比では約40%もの減少を見せている。足元の経常収支の悪化は、海外からの輸入に依存している原油の高騰と、円安によるところが大きい。2022年通期での経常収支は、42年ぶりの赤字となる見方も出てきている。
経常収支の赤字国は通貨安に振れるという考えが一般的だ。なぜなら、対外取引における支出過多は、支払いのために自国通貨を売り、取引先の外貨に変えている状況を意味するからだ。そのため現在の日本は、円安による経常収支の悪化がさらに円安を呼ぶという、負の連鎖にも陥りかねない危うい状況下にある。