日米のインフレの決定的な違い

次に押さえておきたいのが、日米間における「インフレの質」の違いだ。物価が上昇するインフレにはいくつか種類があり、米国は「デマンドプル型」のインフレ、日本の場合は「コストプッシュ型」のインフレであるといえる。

一般的な景気サイクルでは、景気の上向きによって国内での物・サービスの需要が拡大し、供給サイドが需要に追いつかなくなることから物価が上昇していく。このような需要量の増大に起因するインフレを「デマンドプル型」という。物価が上昇しても旺盛な消費需要が続く場合、企業利益が拡大することで労働者の賃金も上昇。さらに物が売れていくという好循環が生まれていく。

一方で物・サービスなど価値の創出にかかるコストの上昇から生じるインフレを「コストプッシュ型」と呼ぶ。内需拡大や旺盛な消費活動の結果ではなく、物の原材料費や製造を担う人件費が上がることが間接的な要因となる。

米国では現在、ウクライナ危機による資源価格の急騰が物価高を牽引しているものの、引き締まった労働市場や堅調な個人消費からなる「デマンドプル型」のインフレ傾向が強いといえる。したがって、FRBの利上げによる需要の抑制は、インフレの対応策として機能する可能性が高い。

日本のインフレは、原油や小麦などの輸入品の価格高騰からくるコストプッシュ型であるとする見方が強い。この場合、需要の増加による企業の利益拡大は生じないことから、賃金の上昇も伴わず、生活コストだけが上がって国民の生活を圧迫することになる。

もし不況下にもかかわらず政策金利が引き上げられれば、抑制傾向にあった需要はさらに落ち込み、景気を下押しする可能性がある。そのため、日銀は現在の低金利政策を続けざるを得ない状況にあるのだ。

日銀の黒田総裁も金融緩和を続ける理由として、日本のインフレが「コストプッシュ型」である点を指摘。景気拡大による賃金や需要の増加が見られていないことに言及した。

しかし、前述の通り為替は低金利の国よりも、金利が上昇している国の通貨高に振れる傾向がある。通貨安となった国は輸入に必要な通貨量が増加してしまうため輸入物価が上昇する。結果、国内の製品価格は高騰し、需要のさらなる減退を招いてしまう。

景気を刺激するはずの日銀の金融緩和策は円安を誘引し、コストプッシュ型インフレを引き起こして景気をさらに減退させる恐れがあるという、大きな矛盾をはらんでいるわけだ。