おひとりさまのお墓、葬送

現代のお墓事情

民法897条では「1.系譜、祭具及び墳墓の所有権は、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する」と定められており、系譜、祭具及び墳墓(家系図、仏壇、位牌、墓石など)は祭祀財産として、その他の相続財産と区別されています。つまり「家」や祖先に関わることは祭祀承継者が引き継いで、慣習に従って取り扱うことがこれまでの前提となってきました。ただし、近年では、この祭祀承継者がおらず、誰も管理しない「無縁墓」が増加しています。また、先祖代々のお墓を閉じ(墓じまい)、他の場所に移転する(改葬)ことも多くなっています。

明治期以来、祖先を祭ることが国民道徳の基礎とされ、お墓はそのための大切な財産として子孫に継承されるものと考えられてきました。しかし、高度経済成長期を経て産業構造、家族構造が変わり、生まれた土地を離れて家族をつくること、あるいは家族をつくらないことも今や一般的になっています。そのため、特定の土地に「家」単位の墓を持ち受け継いでいくことが、実際の私たちの生活スタイルでは難しいことが増えているのです。

それでも、人がいつか亡くなることには変わりがありません。日本では99.97%の人が火葬になりますが、ご遺骨を納める方法は多様化しています。都会ではお墓ではなく納骨堂を選択することも多いですし、遺族が手元に保管することもあります。墓地に納めるとしても、合葬墓・共同墓といった形で、血縁のない人たちが同じお墓に入る選択肢もあります。また、散骨を選ぶ方もいます。

このように多様な選択肢がある中では、自分の死後にどのような形で葬られたいかを生前に決めておくことが、遺された人たちの負担を減らすことにもなるでしょう。

彩子さんはさまざまな疑問や迷いから、自分の死後について家族に話を切り出せませんでした。お墓をどうするのかという問題は、入るお墓の決まっていない全ての人にとって課題といえますが、特に彩子さんのようなおひとりさまに関係するのが、「お墓に入る前の段階」なのです――。

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