源泉徴収制度が定着した意外な理由

3月といえば確定申告。自営業の方はしっかりと非課税部分を申告して、納めすぎている税金を取り戻そう。サラリーマンの方は昨年末の年末調整などで取り戻していることと思う。

納め過ぎた税金が戻ってくるのは、報酬や給与などは金額に応じて、あらかじめ源泉徴収で税部分が引かれているから。この税金は雇い主が納税者に代わって納税してくれている。その後、非課税の部分を申告することで、課税される所得額が減り、源泉で一括徴収されていた金額の一部が戻ってくるという仕組みだ。

この源泉徴収制度、実はナチスドイツによって定着したものだそうだ。制度自体は、ナポレオン戦争時の戦費調達に使われるなどすでにあったようだが、国民全体から徴収するという制度を採用したのは、ナチス政権下のドイツが始まりだった。

当時のドイツは戦費の調達に苦労しており、確実に税徴収するために導入されたと思われる。第一次世界大戦の損害賠償金で苦しんでいたドイツ国家が、資金難に陥っていたのは容易に想像できる。戦後の不況により国民の生活も困窮していたはずだが、それでも税金を事前回収しなくてはいけなかったという余裕のなさを感じさせる。

余談だが、結成当初のナチス党は軍国主義を前面に押し出すことはなく、農村の若者を対象とした旅行ツアーなどを企画し、人気を博していたそうだ。豊かな生活に憧れていただけの国民が、少しずつ極端な国家主義に巻き込まれていった経緯は、今の日本でもあり得るような気がして背筋が寒くなる。

日本でも1940年から源泉徴収制度を採用

日本でも第二次大戦中の1940年、税制改正により、同盟国のドイツに倣って源泉徴収制度が導入された。税を回収する側としては取りっぱぐれがなく、非常に効率のいい制度だ。戦後撤廃されてもよさそうなものだが、やはり課税する側としては魅力が大きかったようで、そのまま継続している。

ただし、日本では戦後すぐの1947年にはすでにサラリーマンの税申告は不要になり、雇用主がまとめて税申告をしてくれるようになった。控除があって非課税部分が発生する場合は「年末調整」として12月に申告すればよいことになり、必要書類さえ出せば、その手続きも雇用主がやってくれる。一般の労働者がわずらわしい税の計算から逃れられたことは大きい。

一見、非常によいことのように思えるが、デメリットもある。日本人全体の納税意識が低くなってしまったことだ。雇用の際の収入交渉なども、あらかじめ所得税や住民税を引いて「手取り額」で考えることが多いのではないだろうか。実際には就職した瞬間からしっかりと税金は取られているのだが、そのことに無関心な人も多い。

ちなみにアメリカでは勤め人でも自分で確定申告し、納税をしなければならない。当然、税金を払っている意識は高くなる。アメリカの高い投票率や、アメリカ人の政治への関心の高さは、このことと無関係ではないと感じる。

忙しい仕事の合間に確定申告の作業をするのは会社員にとって少なからぬ負担にはなるが、自分で申告の作業をしていれば、自治体や国の税金の使い道にも敏感になるのではないだろうか。