アメリカのインフレは好循環も生む!? 日本との違いは、人々の根底にある“エクスペクテーション”

まとめてみますと、アメリカで暮らす人々にとってインフレは、ある程度暮らしの一部になっているように感じます。コストが上がれば、企業はそれを製品の価格の上昇という形で反映させ、消費者は賃金上昇、年金受給額上昇を受けて消費活動を維持し、消費活動が企業の利益へとつながり、賃金上昇をサポートする……というような循環があるとでもいいましょうか。

それでも、昨今の6~7%のインフレに対しては、皆が危機感を持っていますし、さらに貧富の格差を広げるという問題も浮上してきてはいますが、それでもつまるところ、インフレは物価が上がるだけの悲惨だけのものではなく、賃金が上がったり、年金が上がったり、投資の資産が増えたりのよいところもあるという根底のエクスペクテーション(期待)があるように感じます。そうでなければ、あのラーメン屋はとっくにつぶれていると思います。

※編集部注 詳細は『アメリカのインフレが加速したら―本当に恐れるべきは「格差拡大」』をご覧ください。

その根底にあるエクスペクテーションが、日本ではかなり違うのかもしれないとも思わされます。アメリカのメディアが日本の低インフレ環境について書いているものを読んでみました。ざっとまとめると、こんな感じでしょうか。

●日本の消費者は価格の安定とゼロ値上げをエクスペクトしている(当然と捉えている)。そのため、企業は値上げをすることでその期待を裏切ったり、またネガティブな注目を集めるのを恐れている。

●消費が活性化しないことで、企業の利益も頭打ちのため、賃金も上がらない。それでまた消費も活性化しないことになる。

●原油価格、原材料、マイクロチップの値上がりによるコスト上昇は、欧米企業だけでなく、もちろん日本企業にも同様に影響を与えている。違いは、企業がどのようにそれに対応するかだ。アメリカ企業はすぐさまコスト上昇を値段に反映させるが、日本企業はあえて価格維持路線をとる場合が多い。

●消費者は「守り」の姿勢に入っており、ぜいたく品どころか、日常必需品でもできるだけ無駄な消費はしたくないという考えが根付いている。高齢化が進み、人口が減少している日本にあって、消費者の中に警戒心がある。

インフレというと、政府の政策で上がったり下がったりするマクロ経済的なものなのかな……などと捉えていましたが、国民のカルチャーというか、一人ひとりのエクスペクテーションが作り出す集団パワーというか、そんなものの影響も感じるところです。そう考えると、値上げを思い悩んでいた私は、26年アメリカに住んでもやっぱり日本人なんだなぁと思いました。

 

記事内に登場するドルの円換算は執筆時(2022年2月初旬)のレート、1ドル115.2円を基にしています。