現地における運用者インタビューの重要性
訪問調査の5つの目的
定性評価に注力する評価機関では、運用者インタビュー(特に初回)は、評価対象ファンドの運用のための投資判断が行われる拠点を訪問して行うことを基本方針としています。拠点が海外にある場合も同様です。
運用拠点が海外であったとしても、多大な時間とコストをかけ、さらに通訳を入れずに運用者等との会話を外国語で行うことができる人材を揃えてまで、現地調査にこだわるのは(注3)、より多角的に情報を収集するためです。運用者からのヒアリングに加えて、運用会社のご協力により以下の5つを同時に行うことで(注4)、説明通りの運用が実際に行われているとの確信度を高めることができます。また、運用プロセス中どの部分の付加価値が高いのか、あるいはどのチームメンバーの貢献度が大きいのか理解を深めることで、運用プロセスの変更やメンバーの入れ替えが将来起きた場合に、その影響度の大きさや方向性を根拠を持って推測することも可能となります。
(注3)時間やコスト負担あるいは人材難のため、日本の評価機関では(特に海外拠点の)現地訪問調査はほとんど行われていません。
(注4)訪問する運用会社の方針などによっては、全ての調査を行うことができない場合もあります。
① 他のチームメンバーや関係者からのヒアリング
ファンドの運用が運用者(ファンドマネージャー)1人で行われることはまずありません。最終的な判断は運用者が1人で下すファンドでも、判断に資する調査や分析あるいはその実行に際しては、運用会社内の他のメンバーのサポートを受けます。
前出のあいうえおファンドの運用は、運用者を含む複数のチームメンバーで行われ、他のメンバーは、投資判断に必要な調査分析を行い、運用者不在時には運用を代行しています。業種ごとに担当し株式銘柄調査を行う社内のバイサイドアナリストによる調査結果も、投資判断の際には重要視されています。中小型株への投資比率の高いあいうえおファンドでは、組入銘柄の売買は、運用者ではなく専任のトレーダーが、株価に大きな影響を与えないようにその裁量で慎重に発注しています。 そこで上記銘柄Aの事例に関しては、運用者以外にも運用チームの他のメンバーや担当アナリストそれにトレーダーからも、それぞれどのような貢献をしたのかをヒアリングしたいと考えます。
また、運用者、アナリストそれにトレーダーの能力やモチベーションをさらに理解するために、運用会社の運用や調査そしてトレーディングの責任者からも、それぞれの採用方針や育成プログラムそれに評価体系などに関して、話を聞かせていただきたいと思うでしょう。運用会社を訪問することで、多くの関係者から効率よくヒアリングすることが可能となります。
② チーム内ミーティング等へのオブザーバー参加
運用者並びに他メンバーが参加する打ち合わせ、例えば投資環境分析や候補銘柄の検討あるいはパフォーマンス分析などに関するミーティングに、可能であればオブザーバーとして同席させていただきます。説明通りの調査分析や議論が行われているのか、そしてどのメンバーの貢献度が高いのかを確認します。あいうえおファンドのケースでは、組入候補銘柄の検討会等に同席させていただけるようお願いするでしょう。
③ 運用会社内/運用チーム内限定資料の閲覧
あいうえおファンド運用者に提示した質問リストでも記載していますが、説明いただく際には可能な限り実際の調査分析記録やミーティング資料などを参照しながらお話しいただくようにお願いします。銘柄Aの当初の組み入れに関しては、その時点での記録を見せていただくことで調査分析力への信頼度を高めることができます。また現在のプロセスをご説明いただく際にも、調査企業数や頻度あるいはその内容の深さを実際のレポートで示していただくことで、運用力への期待度もさらに高まるでしょう。
ただし、このような資料はほとんどの運用会社で社外持ち出しを禁止しているため、こちらから訪問することで、画面上のみで、あるいはヒアリング終了時に返却する条件で、インタビュー時に見せていただくことも可能となります。
④ オフィス見学
コロナ禍以降、運用会社でもリモートワークが増えているため、以前に比べて重要度は低下していますが、訪問時にはオフィスの中を案内していただき、各メンバーの座席の配置や共有スペースの使い方などを確認します。あいうえおファンドのケースでは、アナリストやトレーダーと運用者とは席が離れているとしても、運用者と他の運用チームメンバーとはコミュニケーションの取りやすい位置関係で仕事をしていただく方が安心できます。そうでない場合には、チームメンバー間のチャットやメールでのメッセージ量や頻度を確認させていただきます。
⑤ システムのデモ
運用プロセス上でシステムや計量モデルが重要な役割を果たしている場合には、目の前で動かしていただくことで、その付加価値や重要性を理解します。あいうえおファンドのケースでは、銘柄選定の初期段階で株価の割安度を測るシステムを使用しますので、そのシステムを動かしていただくか、日々実際に参照されているアウトプットを見せていただきます。また、ポートフォリオの様々なリスクを分析するモデルも日々活用していますので、こちらも同様に確認します。運用で実際に使用しているシステムやモデルを見せていただくことも、運用会社を訪問することで可能となります。
今回は、アクティブファンドの運用力評価を行うために極めて重要な運用者/チームのインタビューで目指すものと現地訪問調査の重要性についてお話ししました。
次回は定性評価に注力する評価機関における評価項目等の評価体系と評価の有効性検証について考えます。