前々回以降、定性評価に注力する評価機関が、アクティブファンドの運用力を評価するために行っている努力や工夫についてお話しています。前回は、ファンドの運用力に迫るためには、運用実績やポートフォリオの変化を調査するのみならず、過去の代表的な投資判断事例を分析し、“正しい”質問を投げかけることで、運用者からのヒアリングの精度を高めることが重要であることをご説明しました。
今回は、運用者からのヒアリングの狙いとヒアリングの際の現地訪問調査の重要性について考えます。なお今回も、運用力評価の手法や考え方は、投資信託の定性評価に日本で最も注力していると思われる評価機関(注1)の事例に基づいています。
(注1)筆者が中心メンバーとして立ち上げその定性評価手法とプロセスの確立に注力した野村フィデューシャリー・リサーチ&コンサルティング株式会社(”NFRC“、かつての野村ファンド・リサーチ・アンド・テクノロジー株式会社(”NFR&T”))
運用者インタビューで目指すもの
投資判断の成功/失敗事例は必然か偶然かを見極める
前回お話ししましたように、アクティブファンドの運用力を評価するためには、運用者が下す投資判断(例:銘柄選択)のレベルまで掘り下げて、運用者の考え方や手法を理解することが不可欠です。運用者の日々の業務判断の目線でお話を聞くことで、過去の成功事例は必然だったのか、同様の成功事例が今後も期待できるのかを見極めることができると考えます。また、過去の失敗事例から学んだものを理解することで、同様の失敗が繰り返される可能性が小さくなるのかどうかも把握できるでしょう。
過去事例が必然か偶然かを判断するためには、以下の視点で考えるように心がけています。
(1) どうして評価対象ファンドではその投資機会を捉えることができたのか?
(2) 競合ファンドでも同様のことはできたか? できなかったとしたらなぜか?
(3) (1)と(2)は今後も継続するか? 継続しなくなるのはどのような状況か?
運用者自身では答えにくい/答えられない質問ばかりですので、インタビューでは上記を直接的に質問するのではなく、やはり運用者の目線で日々の投資判断に沿った質問をするように考えます。前回の“あいうえおファンド(仮称)”の例を使ってお話しします。
インタビューでは投資判断プロセスに沿って追加質問
前回は、あいうえおファンドの過去の投資判断事例から、運用の特色を良く表す事例を選び出し、各事例に関する質問をまとめて、運用者に事前に提示するところまでをお話ししました。以下はパフォーマンス上大きく貢献している銘柄Aに関する質問のみ抜粋したものです(注2)。
(注2)実際のインタビューにあたっては他にも多くの質問がリストアップされますが、本稿では単純化のため、銘柄Aに関する質問に限定してお示しします。
以下の投資判断について、できる限りその時点での調査分析記録等を交えて、その背景や理由をご説明ください。
(銘柄A) 運用開始時から一貫して上位銘柄に位置し、大きなプラス貢献をしていると思われます。運用開始時に主力銘柄としたのはなぜですか? その後投資比率を引き上げることができたのはどのような投資判断によりますか? さらにどのような調査分析を行うことで、現在に至るまで継続して保有することができたのでしょうか?
運用会社/ファンドによっては、事前にコンプライアンスチェックを受けた回答が文書で用意されるなどの理由で、「担当アナリストと協議の上、運用者が最終的に判断しました」のような参考にならない回答が行われることもあります。インタビュー時には補足質問をすることが不可欠です。
(銘柄A)に関する最初の質問では、運用開始時になぜ大きく組み入れる判断ができたのかを聞いています。その投資判断が必然であったのか偶然であったのかを判断するためには、インタビュー時には以下のような追加質問が考えられます。
・ 銘柄Aに着目し、重点的に調査しようと思ったのはなぜですか? (運用チームの)どなたの発案でしたか?
・ 何を調査しましたか? その結果をどのように分析しましたか?
・ (主力銘柄として組み入れる)判断の決め手は何でしたか?
・ 投資比率はどのように決定しましたか?
・ 銘柄Aの経験をこれからどのように生かしますか?
回答においては、過去の調査記録や分析レポートも可能な限り使って説明していただきます。