いま住む自治体の減収分は、住民サービス削減の可能性も?

その意味において、大都市圏に納めている地方税の一部を再配分する機能として、ふるさと納税が機能するのであれば、それはそれで存在する意味も分からないわけではないのですが、今のふるさと納税は、返礼品をもらうことが目的化しているように見えます。その結果、返礼品の内容をカタログ化したサイトが増え、「おトクだから」という理由だけで、自分とは縁もゆかりもない地方自治体に寄付をする人が増えています。

一方、大都市圏の人々が一所懸命に「おトクなふるさと納税」を行った結果、今度は自分が住んでいる自治体の税収が悪化するという事態も生じています。たとえば世田谷区は、ふるさと納税による減収分が70億円にも達し、事業の先送りや住民サービスを削る選択を迫られています。

もちろん、それでも大都市圏の地方税収は、人口流出に苦しむ地方に比べて大きいはずですから、大都市圏の自治体がどこまで業務の効率化を進め、そのうえで税収が本当に不足しているのかどうかを精査する必要はありますが、本来、地方税は自分が生活をしている自治体の住民サービスを維持するために納めるものです。それが、ふるさと納税の行き過ぎによって必要最低限の税収を確保できなくなったとしたら、それこそ本末転倒です。

マネー情報サイトなどでも、ふるさと納税を積極的に推す声がたくさんありますが、その大半は「生活者にとっておトクな制度だから」という理由です。確かに生活者一人一人にとっておトクな制度かも知れませんが、本来の地方税のあり方を歪めてしまう恐れがあるのも事実です。その歪みが取り返しのつかない状況になる前に、人口の偏在と再配分の仕組みを見直す必要があります。