自分を育んだ“ふるさと“に納税できる制度を
この制度が発足したのは2009年で、西川一誠前福井県知事による「故郷寄付金控除導入の提案(2006年10月)」に端を発しています。この提案を受けて、当時、総務大臣だった菅義偉前首相が「都市部の税収を地方に還元する制度」の創設に向けて動き出したことから、この制度がスタートしました。
総務省の「ふるさと納税研究会報告書」によると、制度の意義についてこう書かれています。「多くの国民が、地方のふるさとで生まれ、教育を受け、育ち、進学や就職を機に都会に出て、そこで納税をする。その結果、都会の地方団体は税収を得るが、彼らを育んだ『ふるさと』の地方団体には税収はない。そこで、今は都会に住んでいても、自分を育んでくれた『ふるさと』に、自分の意志で、いくらかでも納税できる制度があっても良いのではないか」。
実際問題として、地方から大都市圏、なかでも東京圏への人口流入は群を抜いています。転入数と転出数を比較し、転入数が転出数を上回っていることを「転入超過」と言うのですが、2020年の住民基本台帳人口移動報告によると、東京圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県)の転入超過は1996年から25年連続です。
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大による影響があり、東京都の転入者数は大幅に減少しましたが、それでも43万2930人の転入者がおり、次いで神奈川県の23万2772人、埼玉県、千葉県、大阪府、愛知県、福岡県の5府県が10万人台で、これら7都府県への転入者数は、合計140万3988人。転入者総数の実に57.0%を占めています。それだけ、地方から大都市圏への人口移動が進んでいるということです。
地方から大都市圏への人口移動が起こる理由は、大学進学で東京に出てきたものの、生まれ故郷には十分な仕事がないため、そのまま東京をはじめとする大都市圏の会社に就職し、そこに生活の基盤を置く人が多いからというのが、その最たるものでしょう。
ただ、地方から見れば、子どもの頃は住んでいる地方の自治体から医療や教育などの住民サービスを受けて育ったのに、大学は東京の学校に通い、そのまま東京で就職・生活されたら、納税者である社会人になった途端、住民税をはじめとする地方税を、東京などの大都市圏に奪われてしまう形になります。将来、大人になった時、納税者として税金を納めてくれるという前提で、子どもに対してさまざまな自治体サービスを提供したのに、大人になったら「さようなら」というのでは、確かに納得できないところもあるでしょう。