加給年金にまつわる、ワンランク上の疑問も考察してみよう
この「加給年金」については、制度への理解が深まるにつれて、こんな疑問もわくかもしれません。夫が年上、夫婦共働きというケースにまつわる疑問です。
疑問1:妻が20年以上厚生年金保険に加入していても、その妻が老齢厚生年金を受給するまでは、その夫に加給年金が加算されるのはなぜ?
妻が20年以上厚生年金保険の被保険者であっても、妻は自身の受給権を得るまでは“生計維持されている配偶者”として夫に加給年金が加算されます。なお、妻が特別支給の老齢厚生年金※1を受給すると夫の加給年金は停止されます。
※1 特別支給の老齢厚生年金:65歳未満の人に対して、生年月日に応じて特例的に老齢厚生年金が支給される年金。
さらに難易度の高い論点になりますが、働き続けている妻が、特別支給の老齢厚生年金の受給権発生後に、厚生年金保険の被保険者期間20年以上となった場合でも、退職しない限りは、夫の加給年金は現行のルールでは加算されるのです。違和感が残ります。
疑問2: 20年以上働いている妻が特別支給の老齢厚生年金を受給。ただ、在職老齢年金※2により老齢厚生年金が全額支給停止されている期間中も、加給年金は加算されるのはなぜ?
※2 在職老齢年金:働きながら年金を受け取る場合、年金額(基本月額)と収入(総報酬月額相当額)に応じて一部または全部が支給停止される制度
妻が老齢厚生年金を一部でも受け取っていると夫の加給年金は支給停止されます(妻が厚生年金保険の被保険者であった期間が20年以上の場合)。
その一方で、高収入であることを理由として妻の老齢厚生年金が全額支給停止となっているのにもかかわらず、加給年金が加算されることとなり、不公平さを感じます。また、妻が失業給付(基本手当)を受給中により老齢厚生年金が全額支給停止となっている期間中も、夫には加給年金が加算されます。
後述しますが、「夫婦の年金収入のお財布は1つである」という考えが年金制度のベースにはあります。家族のお財布を1つと考え、お財布の仕切りが厚生年金保険の被保険者期間20年を境に変化するのであれば、疑問1・2ともに現役で20年以上働いていながら、加給年金を受け取ることができるため、疑問が残るケースと言えます。
しかしながら、「働いていること」が原因により支給されなくなってしまう制度は、“働き損”と感じ、就労意欲が低下する等、女性を含め多くの人の就労を勧める現代社会とミスマッチが生じてしまう…と複雑な思いが強くなってしまいます。
まとめ
第1回と重複しますが、公的年金は経過措置等が多く残っている制度であることがお分かりいただけると思います。年金制度はその歴史的経緯もあって、いわゆる男性が働く(女性は専業主婦)世帯をモデルとして、「夫婦の年金収入のお財布は1つである」という考え方がベースにあります。
少しずつ社会の実態に即した制度の見直しを法改正等で行っている最中であり、見直しされる事由もあります。世帯の多様化、女性の就労促進などにより、共働き世帯が多数を占めるようになってきた現代では、家族で1つの財布というよりは、“一人ひとり”という考えの方がスッキリするところもあるかもしれません。だからといって、すべてを“一人ひとり”で考えると家族の絆等が薄れ、少子化の問題がさらに深刻化する可能性もあります。
今の時代、夫婦で長く働くことによってお互いでお互いを「生計維持している」と考えるとすると、「生計維持※3」を20年という期間(高収入要件を除く) で仕切る現在の基準が実態に即しているかという疑問も残ります。家族単位で考えるのであれば、公的年金の役割を長生きリスクに備える保険として、明確な基準、仕切りが求められるのではないでしょうか。
※3 「生計を維持されている」とは、原則次の要件を満たす場合をいいます。
1.同居していること(別居していても、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められます)
2.加給年金額等対象者について、前年の収入が850万円未満であること。または所得が655万5千円未満であること
改めて社会実態に合わせた仕組みへの見直しを検討する必要があるでしょう。