世界的に学び直し(リスキリング)の気運が拡大

トフラーの言葉は、ますます現実味を帯びている。

世界経済フォーラムは、デジタル化の進展で2025年までに事務職などの8500万人が仕事を失う一方で、AI関連の専門家などの分野で9700万人の雇用が生まれると予想する。

新たな産業の育成とこれを担う人材づくりに各国が注力する。イギリスでは今年4月に、25憶ポンド(約3800憶円)の金額を投じ、プログラマーなどの育成のための、「ライフタイム・スキルズ・ギャランティ(生涯技能保障)」を立ち上げた。アメリカでも、今年3月に環境分野などの成長産業の雇用拡大へ1000憶ドル(約11兆円)を投じる「米国雇用計画」を発足させた。

一方、日本での職業開発・訓練面での公的な支出は、主要国で最低の水準だ。対GDPで、2017年は0.01%に留まり、アメリカの3分の1、ドイツの18分の1にとどまる。日本の雇用政策の主点は、なお雇用の維持・失業の抑制であり、コロナ禍での雇用調整助成金に4兆円以上が投じられた。

一方、民間部門でも活発なリスキリング(職業能力の再開発・再教育)の動きが見られる。アメリカのアマゾン社では、社内研修プログラム「アマゾン・テクニカル・アカデミー」を活用して、倉庫作業員などが9か月間のカリキュラムを受講し77人が卒業、ソフト開発のエンジニアとして必要なスキルを身に着けた。

日本でも、職場内訓練(OJT)が主体であった人材育成から脱却し、人材競争力を高める動きがある。キヤノンでは就業時間中に、1年間に約5,000人を対象とするソフトウェアに特化した教育を始めた。

雇用保険にも能力開発のための資金援助規定があり、これを活用してのスキルアップに取り組む人は多い。また、一定期間就業ののち、大学に入り直して新たな知識やスキルを身に着けるリカラント学習などの動きも広がりつつある。ただ、競争力と持続力を高めるため、企業も率先して学び直しの機運を高めることが望まれる。 

2017年に設置された日本政府主催の「人生100年時代構想会議」のメンバーとなった、ロンドン・ビジネス・スクールの教授で人材論・組織論等で著名なリンダ・グラットンも、人生100年時代が当たり前になれば、人生の早い時期に一度にまとめて知識を身につける時代は終わる可能性があるとした。70代、80代まで働くようになれば、手持ちの知識に磨きをかけるだけでは生産性を保てなくなり、時間を取って、学び直しとスキルの再習得に投資をする必要がある、と強調する。まさに生涯学習の時代の到来だ。

執筆/大川洋三
慶應義塾大学卒業後、明治生命(現・明治安田生命)に入社。 企業保険制度設計部長等を歴任ののち、2004年から13年間にわたり東北福祉大学の特任教授(証券論等)。確定拠出年金教育協会・研究員。経済ジャーナリスト。
著書・訳書に『アメリカを視点にした世界の年金・投資の動向』など。ブログで「アメリカ年金(401k・投資)ウォーク」を連載中。