Q:職員「お客さまへ良い提案をするためのコンサルティング能力はどうやって向上させればいいですか。何に関心を持つべきでしょう」
A: 支店長「幅広い分野に興味を持つことが大切です」
森脇's Answer:
金融の仕事では、幅広い分野に関心を持つのは大切なことです。そうはいっても、いったい何から手を付けていいか分からず、途方に暮れてしまうかもしれません。
知識や技能の習得に先立つもの
現場ではスキル不足を言い訳にできませんし、これだけ学べば十分ということもありません。だからといって、自信がつくまで準備をしていたらキリがありません。いくら経験を積んでも分からないことに遭遇します。さらに金融業界は頻繁に行われる制度変更への対応も迫られます。絶対的な正解や完成がないなかで、何をいかに習得すべきか、という自分を起点とした発想では当惑しがちです。
ここで何に興味を持つべきかといえば、その答えはお客さまにあります。
現場の皆さんは、まずお客さまの全体を知ろう
お客さまに興味を持つということはこの連載で繰り返しお伝えしていますが、これは単なるスローガンではありません。具体的な事例で考えてみましょう。
70歳代後半の女性のお客さま。自金融機関の残高は2000万円、そのうち半分は定期預金、もう半分は投資信託です。定期預金の1000万円が満期になりましたが、お客さまによると特に使う予定のない資金とのこと。
例えば、担当者の今月の売上目標達成まであと500万円だったしましょう。すると目標達成のために、このお客さまに金融商品を提案したいと考えるかもしれません。このような状況で契約を獲得するために、巧みなセールストークを身につけたいと思うかもしれません。しかし、このような活動は顧客本位ではありません。かといって、お客さまの意向を聞いて、定期預金のまま置いておく対応で十分というわけでもありません。
コンサルティング営業で成果を上げるには、お客さまを深く知ることが必要です。より具体的に言うと、「目の前のお金だけではなく総資産を把握する」ということです。この視点から、お客さまへの理解を深めるとどのような提案につながるのかを考えてみましょう。
先述のお客さまが「このお金は使う予定がない」と言った時点で、それは総資産を知るチャンスです。他行に多額の資金があるのかもしれないと想像を巡らすことができるはずです。預貯金総額を直接尋ねても、正直に話してくれるとは限りません。「いろいろと提案させていただきたい」という態度を取りながら、お客さまの困りごとや不安、将来の意向などを聞いてみてください。例えば「相続税が心配」という声を聞くことができれば、総資産を尋ねることにかなり近づいたといえます。相続税の基礎控除を超えるかどうかを試算するという提案から総資産を知ることにつなげられるからです。そこまで発想がおよばなくても、相続についてお客さまの事例に基づいて具体的に学ぶ機会が得られたわけです。そして少し調べれば、基礎控除を計算するために必要な情報を取得できていないことに気づくでしょう。家族構成などを確認し、お客さま情報をより精度の高いものに更新しましょう。死亡保険金の控除をフルに活用するためには、他社での保険契約についても聞く必要があります。また不動産の相続税評価の計算方法や、相続税軽減措置である小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減などに該当するのか否かなど、検討すべきことがいくつもあり、習得すべき知識がおのずと明確になります。税については税理士法で個別具体的な案内はできませんが、一般論として情報提供することで役に立つことができます。
お客さまのことをより深く知るために、質問の仕方を工夫してみましょう。不動産収入があるとか、事業を経営していて役員報酬があるといった情報が得られることがあります。そうするともう目の前の1000万円だけの提案ではなくなります。資産全体についてお客さまの金融ニーズが豊富にあることが判明し、自金融機関でさまざまな提案が可能であることが分かるでしょう。お客さまを知ろうとする顧客本位の活動は、目先の目標達成のために行う活動などよりずっと大きな成果を生み出せるのです。
支店長・役職者の皆さんは、仕組みを整える努力を
コンサルティング営業で成果を上げることを自金融機関の目標として定めるならば、評価方法に配慮してください。特定の商品に偏った販売することで高い評価を得られるようであれば、多くの職員はあらゆる商品提案の可能性を潰して自分の成績になる商品に落とし込んでしまいます。そのゆがみの責任は、職員をそのように誘導する経営にあります。あらゆる提案の可能性を探るため、他課への連携を評価するなどして幅広い提案活動を支援してください。
支店長の一存では変えられないこともあると思いますが、定性評価に組み入れたり、顧客本位の活動に見合う取り組みを称賛するなどして社内のムードを作ったりするのも効果的です。単に数値で評価するのではなく、お客さまを起点に価値を生み出す活動が評価されれば、職員のやる気ややりがいの向上につながります。
コンサルティング営業で成果を上げるためにもう一つ大切なこととして、精度の高い情報の管理と活用があります。優れた提案の基盤となる顧客情報の記録と蓄積は、決算上の数字として表れない資産であり未来の収益源です。ぜひそのために必要な投資を行ってください。コンサルティング営業を掲げる金融機関は、前述の接客例での営業職員と同様に、目の前の収益を手放すという覚悟が必要であるということです。

