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こたえてください支店長~投信窓販における顧客本位を実現するために~

「支店長!融資が第一とおっしゃいますが、投信販売は重要ではないのでしょうか。担当する私たちの仕事が軽視されているように感じます」

森脇 ゆき
森脇 ゆき
フィデューシャリー・パートナーズ 代表
2025.09.19
会員限定
「支店長!融資が第一とおっしゃいますが、投信販売は重要ではないのでしょうか。担当する私たちの仕事が軽視されているように感じます」

投信販売に徹底した顧客本位の姿勢が求められる中、現場からは戸惑いや不安の声も聞かれます。若手、ベテランを問わず真のフィデューシャリー・デューティーを実現するにはどうすればいいでしょうか。これまで2000人以上のお客さまに「あなたのための」資産アドバイスを行ってきた株式会社フィデューシャリー・パートナーズの森脇ゆきさんが、皆さんのお悩みに答える連載、第23回目です。

Q:職員「支店長! 融資が第一とおっしゃいますが、投信販売は重要ではないのでしょうか。担当する私たちの仕事が軽視されているように感じます」

A: 支店長「金融機関の事業は法人融資が第一ですから、それに比べて投信販売の重要度が低いのは致し方ありません」

 

森脇's Answer:

今日おける投信販売の重要性

投信販売において今以上にその業務の重要性が増している時期はありません。少子高齢化が叫ばれて久しく、年金や老後への漠然とした将来不安が覆っていたところに、昨今のインフレが国民生活を圧迫して、将来への不安をより実感を伴ったものとして感じる人々が増えているからです。そういったお金についての不安を軽減させたり、リスクをコントロールしたりするために、投資を含めた金融商品のニーズはいまだかつてないほど強まっているのです。

一方で、投信や保険の販売戦略を見直す金融機関もあるようです。日銀は2024年3月の金融政策決定会合でマイナス金利を解除し、同年7月に利上げを決定しました。それまでのマイナス金利下においては、預金の収益性の低さを背景に、投信や保険の販売手数料で稼ごうとする動きが活発でした。しかし金利のある世界へ移行することで、預金流出につながる窓販業務は抑制される傾向にあります。

たしかに投資信託を販売すれば、直接的にはその分だけ預金残高が減少することになるでしょう。しかし、投信販売と預金残高とは単純なトレードオフの関係ではないと、筆者は自身の経験をもとに考えています。お金にまつわる不安やお悩みに向き合い、資産形成などのアドバイスを通した販売活動を展開することで、お客さまに価値を感じていただければ、分散している資金を集約していただけるのです。さらに、家族取引も増やしていただくなどメインバンクとして利用していただければ、預金残高は増加します。

投信窓販は重要な業務であり、顧客本位で取り組む限り萎縮する理由はありません。

すべての仕事は大切なもの

組織内で行われるどのような仕事にも意味があります。筆者は新人の頃に先輩から教わった「雑用という仕事はない」という言葉を覚えており、今でも大切にしています。金融機関は組織であり、各支店も一人ではなくチームで運営されています。チームの構成員が行う一つひとつの仕事の積み重ねや組み合わせによって日々の業務が回っていることを忘れてはなりません。いずれかが欠ければ何らかの支障が生じますし、逆にチームのメンバーが互いに働きやすいように配慮して仕事ぶりを整えれば、大きな生産性の向上も見込めます。

この前提に立って、自金融機関の事業構造や経営計画などを確認してみてください。収益の要となっている事業には、より多くの経営資源が割かれていると思います。預かり資産担当は人員が少なかったり、業務環境の整備が遅れていたりするのを感じるかもしれません。経営戦略によって、各部門・部署への資源配分の重みづけが異なるのは当然のことです。ただ、勘違いしないでほしいのは、自金融機関にとっての各事業の重要度や優先度と、それに従事する個々人の優劣を同一にしないことが大切です。

組織の中で働いていると、互いに優劣を付けようとする原理が働くことは少なくありません。それは、経営層や管理者が自らの優位性を誇示したがるという形だけでなく、現場にいる人が真摯に仕事に取り組んでいるにも関わらず自分たちの働きに自信を持てないといった形でも現れます。しかし、本来は組織全体として価値を生み出すことにこそ意味があるのであって、内部で優劣をつけることには意味はありません。自分の立ち位置ばかり気にすることは、顧客本位から遠ざかることです。そのような傾向に惑わされず、ご自身の仕事の意義をしっかり捉えてください。窓販の仕事においては、お客さまと向き合うことで重要な価値が生み出されるということを忘れないでください。

支店長や役職者は、職員の不安をどう受け止めるか

現場職員が「自分たちの業務は経営層から軽視されている」と感じることは、投信販売のみならず事務担当の職員にもよくあることです。そうならないためには経営方針を明確に説明した上で、各業務の担当者間に優劣があるわけではないことの理解を得る必要があります。どんなに自金融機関で取り扱いの少ない部門や業務であっても、プロフェッショナルとしてのサービスを提供する必要があります。投資信託販売を業務として行う以上は、経営計画におけるその位置づけを明確にして、全職員に周知することが不可欠です。さらに全職員が自分自身の仕事について納得して取り組める環境を整えられているのかを点検する必要があるでしょう。それができないのであれば取り扱いを中止するというのも経営判断です。

各事業の重要度によって経営資源配分の重みづけが変わるのは当然ですが、それを職員の待遇格差に還元すべきではありません。職員の評価は、その業務における各人の成果や働きの質に対してなされるべきではないでしょうか。職員のエンゲージメントや、組織全体の士気に関わる問題です。

投信窓販は女性の仕事なのか

今回のご質問は女性からいただいたものです。金融機関によっては、投信窓販の多くを女性職員が担い、法人融資を男性職員が担うという性別による業務分担があるところも多いと聞きます。経営方針として相対的に重要度の低い部門を女性に担わせるという性差別の一形態とも受け取れます。

かねてから指摘されているように、金融機関は男女間賃金格差が大きいとされる5つの産業(金融業・保険業、食品製造業、小売業、電機・精密業、航空運輸業)のうちの一つです。その理由の一つが女性管理職の少なさですが、ロールモデルがいないか少ないことが管理職になることをためらう理由の一つとされています。管理職になることを引き受け、より高位の役職を目指そうとしても、花形とされる法人融資の業務経験が前提となっていれば、そのような経験を積む機会を与えられない女性はより一層厳しい状況に置かれていることになります。実際に、管理職を目指すにあたり「他の男性管理職と違い、私には法人融資の経験がない」という意見はよく聞きます。多くの女性が管理職として働く組織となるためには、多様な働き方ができる環境整備のみならず、人事に関する制度や慣習の変革も必要ではないでしょうか。

お客さまの苦情が業務改善の貴重な手がかりであるのと同様に、職員の不満や不安も組織の問題点を探り出して変えていくための重要なヒントです。

Q:職員「支店長! 融資が第一とおっしゃいますが、投信販売は重要ではないのでしょうか。担当する私たちの仕事が軽視されているように感じます」

A: 支店長「金融機関の事業は法人融資が第一ですから、それに比べて投信販売の重要度が低いのは致し方ありません」

 

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森脇 ゆき
もりわき ゆき
フィデューシャリー・パートナーズ 代表
信用金庫の預金業務担当を経て信託銀行に勤務、個人向け資産アドバイスを担当。担当総顧客数は約2000人、不動産・相続相談を含む総合的な資産アドバイスを経験する。深く学ぶにつれて、働く意義、社会貢献、自分にとっての良い仕事とお客さまの最善の利益を追 求するため、独立を決意。2018年、フィデューシャリー・パートナーズを設立。
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