SNS発、“カリスマ投資家”の危うい甘言
2025年5月、国際的な証券監督機関であるIOSCO(証券監督者国際機構)が「フィンフルエンサー(金融情報を発信するインフルエンサー)に関する最終報告書」を公表した。それを踏まえ、以下、フィンフルエンサーの情報提供の問題点について論じてみたい。
ソーシャルメディアの普及とともに、世界的にフィンフルエンサーが増加している。彼らはSNSを駆使し、親しみやすい言葉遣いや視覚的に魅力的なコンテンツを通じて、若年層など、これまで金融情報に触れる機会の少なかった層にリーチし、彼らに投資を促している。
こうした中、YouTubeにおいて、フィンフルエンサーが「投資初心者でも、この投資法を使えば、毎月高収益が期待できます!」などといったキャッチフレーズを掲げ、視聴者を有料のオンラインサロンやセミナーに誘導し、具体的な銘柄名や売買タイミング、投資戦略を継続的に提供するといった行為が少なからず行われている。我が国においては、有償で投資判断に関して具体的な助言を行う場合、投資助言・代理業の登録が必要なはずだが、どれだけのフィンフルエンサーが適切に登録をしているのか、はなはだ疑わしい。
IOSCOの報告書では、フィンフルエンサーが個人投資家に対し引き起こすリスクを以下の3つに大別している。
1.高リスク投資の推奨
暗号資産やFX、CFD(差金決済取引)など、ボラティリティが高く、複雑で理解が難しい高リスクの金融商品を、あたかも安全で簡単に利益が得られるかのように推奨する。
投資経験の少ないフォロワーを、彼らのリスク許容度を超えた商品へと誘導する。
2.誤解を招く、または偏った情報の発信
金融の専門知識を持たないまま、不正確なデータ、誤った知識、あるいは根拠のない予測を発信する。
特定の金融商品や投資戦略について、そのリスクを十分に説明せず、メリットのみを過度に強調する。
過去のパフォーマンスが将来の成果を保証するものではないという重要な注意書きを省略したり、目立たないように表示したりする。
3.利益相反の不適切な開示・透明性の欠如
特定の金融商品の推奨やプロモーションに対して、企業から報酬(金銭、商品、サービスなど)を受け取っているにもかかわらず、その事実をフォロワーに明確に開示しない。
自身が推奨する金融商品を保有している(または売買する意図がある)場合でも、その事実を開示しない。
IOSCOは、こうした行為が個人の資産形成を阻害するだけでなく、金融市場全体の健全性や信頼性をも損なう恐れがあるとして、各国の規制当局に以下のような対応を検討するように促している。
1.フィンフルエンサーの定義と範囲の明確化
フィンフルエンサーの活動範囲を明確に定義する。
フィンフルエンサーの対象は、(報酬の有無にかかわらず)金融商品やサービスに関する情報を提供する個人や団体と明確化する。
2.開示要件の強化
推奨する金融商品やサービスに関する金銭的または非金銭的な関係(報酬、無料提供、所有権など)を明確に開示させる。
リスクに関する情報も明確かつ公平に開示させる。
3.適切な情報提供の確保
正確、公平、誤解を招かない情報提供を心掛け、過度な誇張や保証、誤解を招くような表現は避けさせる。
利用者の投資目的やリスク許容度を考慮せずに、一般論として投資を推奨する行為は控えさせる。
4.金融リテラシー教育・投資家保護
フィンフルエンサーのコンテンツを評価する際の注意点や、詐欺から身を守る方法に関する情報を提供する。
苦情処理メカニズムや、不適切なフィンフルエンサー活動に対する報告制度を整備する。
5.プラットフォーム事業者の責任
ソーシャルメディアプラットフォームやコンテンツ共有プラットフォームに対し、フィンフルエンサーの活動を監視し、不適切なコンテンツを削除するなどの責任を負わせる。
プラットフォーム事業者と規制当局との連携を強化し、不適切なコンテンツへの迅速な対応を行う。
6.国際的な協力と連携
フィンフルエンサーの活動は国境を越えるため、国際的に共通の原則やベストプラクティスを策定し、規制の整合性を図る。
法の網をかいくぐる“グレーゾーン助言”のリスク
さて、我が国では、金融商品取引法において、「有価証券の価値等について助言するサービス、または金融商品の価値等の分析に基づく投資判断について助言するサービスを業として行う場合、投資助言・代理業の登録が必要となる」と定めている。投資助言・代理業を業として開始する場合、事前に法律に基づく登録が必要となるほか、投資顧問契約に基づき、有価証券の価値等又は金融商品の価値等の分析に基づく投資判断に関し助言を行うことになる。なお、登録に際しては、登録免許税15万円が必要となるほか、登録後、業務を開始する前に営業保証金500万円を供託する必要があり、個人が投資助言・代理業を営もうとする場合、金銭的なハードルが高い。
具体的な行為として、動画視聴やセミナー受講のために会員登録を求め、月額料金・年額料金が課されてしまう場合には、投資助言・代理業登録が必要となるほか、例えば、株価の動向についてのみ言及し、投資判断に関する言及(売り買いのアドバイス等)を避けた場合であっても、実質的に投資判断を促す内容である場合、形式的な表現にかかわらず規制対象となる可能性が高い。また、継続的に投資情報提供を行う場合にも登録が必要となる可能性がある。
一方、金融庁の監督指針では、「不特定多数の者を対象として、不特定多数の者が随時に購入可能な方法により、有価証券の価値等又は金融商品の価値等の分析に基づく投資判断を提供する行為」は投資助言・代理業に該当しないとされている。すなわち、会員登録等の必要がなく、いつでも自由にホームページ上にアクセスできる状態になっており、不特定多数の者が随時にその情報を入手できる状態にある場合には、投資助言業に該当しないということだろう。これは、一般的なSNS投稿やYouTube動画での情報発信が、必ずしも規制対象とならないことを示しているものと思われる。
いずれにせよ、フィンフルエンサーの提供情報が法的にセーフか否かを判断するのは難しいものと思われる。リスク性金融商品の販売に携わる金融機関職員は、フィンフルエンサーが提供する情報に関心を示す顧客に対して、どのような点に留意すべきか、丁寧に説明する必要があろう。
なお、政府も対策を強化しており、無登録業者に対する緊急差し止め命令がなされた例が出ているほか、逮捕事例も報告されているのだが、怪しげなフィンフルエンサーの活動が勢いを増している状況下、投資家保護の観点より、政府には、無登録での投資助言業ビジネスの取締りを一層強化してもらいたいところだ。