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資産運用ビジネスの本気度が問われる時代へ、変わる監督行政と業界
7月に発足した金融庁「資産運用課」の課題は  永山玲奈課長に聞く

finasee Pro 編集部
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2025.10.02
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資産運用ビジネスの本気度が問われる時代へ、変わる監督行政と業界<br />7月に発足した金融庁「資産運用課」の課題は  永山玲奈課長に聞く

質の高いサービスを継続的に提供していくためには、安定的な収益基盤を確立していくことも重要となる――。そのような問題意識のもと、今年7月に発足した金融庁の「資産運用課」が業界の在り方に根本的な問いを投げかけている。 監督と企画の機能を合わせ持つこの新組織は、業界・政策・投資家をどう有機的に結びつけていくのか。その狙いと展望を、資産運用課の永山玲奈課長に聞いた。

 

――2年ぶりとなる「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート」が公表されました。大手運用会社13社の収益構造を比較したデータなど、読みごたえのある内容だと話題になっています。

これまでのレポートで指摘されたガバナンス・経営体制の強化、運用力の強化、日本独自のビジネス慣行の是正と競争の促進等については、「資産運用立国実現プラン」や大手金融機関グループに策定・公表してもらった運用力向上やガバナンス改善に向けたプランに様々な対応が盛り込まれており、継続的にフォローしています。

今回のレポートでは、「プロダクトガバナンスの高度化」のように一定の目線を持ってモニタリングした内容のほか、運用業界から提供されたデータをもとに、業界の全体的な構造や動向を“見える化”した内容を提供し、各社が業界内での立ち位置や自社の特徴を把握しやすくなるよう心掛けました。

資産運用立国の取り組みの中で、貯蓄から資産形成への流れも動き始め、業界の資産運用残高(AUM)は拡大していますが、一方で信託報酬の低廉化に伴い、収益の確保が課題になっています。また、NISA制度の普及などにより、家計にも「長期・積立・分散」の投資スタイルが定着しつつあるなかで、各社が自社の戦略や今後のビジネスモデルのあり方を真剣に検討する局面にあるのではないかと思います。既に自社の立ち位置や特徴を分析されている会社も多いと思いますが、客観的な立場からデータを整理して提供することで、新たな気づきや社内でのさらなる検討につながればと考えています。

低コスト競争が進む中で「顧客本位」を持続可能な形で実現していくためには、自社の強みを活かし、顧客に十分な付加価値を提供しながら、その対価として自らも収益を上げられるサービスを追求していく必要があります。付加価値の対価として健全な形で収益を上げていくことは、良質なサービスを持続的に提供するための重要な基盤になります。せっかく動き始めた資産形成への流れ、そしてそれを支える顧客本位の業務運営をしっかり根付かせていくためにも、持続可能なビジネスモデルに基づく安定的な収益基盤を確立していただきたいと思います。

 

――今回のレポートでは大きく取り上げられていませんが、金融グループの親会社による経営陣の人事ローテーションが、運用会社に短期志向をもたらすという問題は依然として指摘されています。

経営陣が親会社出身者であってはいけないというような形式的な話ではないと思います。重要なのは形式ではなく、グループ外の投資家に受託者責任を負う立場として、その責任を果たすのに必要な独立性と専門性が実質的に確保されているかです。

求められる独立性としては、投資判断や議決権行使といった運用業務のコアな部分において、グループ会社からの介入やグループ内の忖度が一切なく、完全に独立した判断ができることのほか、かつてのようにグループ会社の意向を踏まえて顧客本位とは言えない商品を組成するといったことがないよう、しっかりとしたプロダクトガバナンス体制を確立し、提供する商品について投資家に対して独立して責任を負えることも重要です。

他方、大手金融グループの場合、グループ全体の資産運用ビジネスの戦略については、グループ内の他の運用会社や運用機能との調整もあり、親会社が中心となって検討していることも多いと思います。そうした中で親会社と連携しながらビジネス戦略を描くこと自体は問題ではないですし、むしろ運用会社の考えや状況をよく理解しておいてもらう必要があるでしょう。

こうした点を踏まえ、グループ会社の経営トップに求められる資質・経験は何かを検討の上、それにふさわしい人物を選任し、前述の観点からの独立性についてはグループ全体として尊重していくことが求められます。

 

――レポートでは、家計によるグローバル資産投資についても触れられています。当局としては、日本の個人投資家に、国内株への投資を促したいという意図があるのでしょうか。

2024年1月のNISA制度の拡充以降、家計の投資資金が海外株式に多く向けられました。これに対し、「日本の資金が国内の成長に向けられていない」、「海外への流出を制限すべき」と懸念する声も一部にありますが、当局としては、投資対象の地域に制約を設けることは考えていません。

むしろ、適切に分散されたグローバル投資は、家計の安定的な資産形成にとって重要だと捉えています。大切なのは、投資によって得られたリターンが、消費や再投資を通じて国内経済に還元されるという視点です。今回のレポートでも、その循環のイメージを図で示しました(図1)。

図1:期待される好循環

出所:金融庁「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート2025」

一方で、「もっと日本企業に資金を振り向けてほしい」という期待があるのも事実です。それを実現するために、日本企業自身が“投資先として選ばれる存在”になることが重要です。たとえば、コーポレートガバナンス改革などを通じて継続的に企業価値を高めていくことで、投資家の投資判断の結果として自然と日本市場に資金が向かうようになってほしいと思います。



――26年以降も「プログレスレポート」を毎年発行する予定ですか。

毎年、公表を継続する予定です。26年も6月末までの公表を目指し、新たなテーマも含め、まとめていきます。なお、今回実施したデータ収集については、業界や事業者の協力が不可欠なため、負担や必要性を考慮しながら内容を調整していきます。

 

――投信のプロダクトガバナンスに関する運用会社・販売会社間の情報連携が12月に本格的に始まります。両業界に期待することは。

今回の「情報連携」では、毎月分配型ファンドなど、8類型の商品が対象になります。どれも、万人向けというよりは、一定の顧客層を想定して設計された商品で、販売に際しては留意が必要なものです。

情報連携でまず期待されるのは、これらの商品が実際に想定された顧客層に適切に販売されているかどうか、必要以上に広く売られていないかといった実態を把握し、課題がある場合に売り方を是正していくことです。売り方については、販売会社における対応が中心になりますが、運用会社においても考えられる原因に応じ、販売用資料の見直しや販売会社とのコミュニケーションの見直し等の対応が考えられます。

また今回、販売会社から運用会社に提供されるデータによって、運用会社は自社の商品がどのような顧客に、どの程度販売されているのかを初めて直接把握できるようになります。これは単なるチェック機能にとどまらず、今後の商品設計や営業戦略の見直しにもつながる、非常に有意義な情報です。運用会社が効果的に分析し、将来のより良いプロダクト提供につながることが期待されます。

 

――26年4月に投資信託協会と日本投資顧問業協会が統合して「資産運用業協会」が発足予定です。

両協会の統合により、運用資産1000兆円という巨大な協会が誕生します。受託者責任を負う投資運用業者として統一的な視点で運用力向上やガバナンス改善に取り組み、資産運用サービスの高度化、資産運用業界の地位向上につながることを期待しています。

統合そのものも決して容易なプロセスではありません。まずは統合の目的に沿って、2つの協会を1つにまとめることに注力する必要がありますが、その上で、新たな協会としてどのような機能を強化していくかが問われます。こうした点については、現在、業界内で議論が行われているところですが、統合を契機に、資産運用立国の要となる業界を支えるにふさわしい機能を備えることを期待しています。その内容によっては、事務局体制の強化など、運営面の議論も必要になるかもしれません。

新たな協会の体制や方向性については、来年の年明けごろから徐々に具体像が示されていくと聞いています。統合時点で完成形というよりは、統合後も協会にあり方について議論が続くものと思いますが、業界内でしっかりと議論を重ね、資産運用立国を推進する実効性のある協会となることを願っています。

 

――50社超の資産運用会社が参加する「資産運用フォーラム」は、グローバルな資金循環の促進や金融のDX化などをテーマに官民で議論を深める場として注目されています。資産運用業協会との関係は。

資産運用フォーラムは、国内外の関係者の声を踏まえながら資産運用立国等の取り組みを進めていくために立ち上げられ、国内運用会社だけでなく外資系PEファンドなど多様なメンバーが参加しています。現在はオルタナティブ投資やDX等、4つの分科会が立ち上げられ、先進的な取り組みや実務面の課題等を踏まえ、今後取り組むべき方策について活発な議論が行われています。参加者の幅の広さや自由闊達な議論の状況から、特に海外資金の呼び込みや、先進的な取り組みの推進、当局への政策提言といった面で大きな役割を担っていくことが期待されます。

今後、フォーラムで出たアイデアやニーズが、来年統合して誕生する資産運用業協会のルール改正などにもつながっていくことは十分考えられます。現状、両者は立場や性質は異なりますが、相互の連携により業界の発展が加速することを期待しています。

 

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