アドバイザーの皆さまは、人生100年時代を前提に、お客さまが豊かな老後を過ごせるよう、資産の形成や取り崩しについて丁寧なアドバイスをされていることと思います。一方で、皆さま自身が心のなかで、50歳代に入ったら仕事のゴールライン、すなわち定年も近いと思い込んでいらっしゃるとしたら、それは大いなる矛盾ではないでしょうか。定年はゴールラインではなく、むしろ次のスタートラインではないでしょうか。
研修で講師としてお声がけをいただくと、私は自己紹介も兼ね、自らの職業人人生をマラソンランナーに例えて話をします。
ゴールまで残り5㎞のボードが見え、あと一息と思った瞬間、不幸にも片足のシューズが脱げてしまった。さあどうする?やめようか、リタイアしようか。いやいや、せっかくここまで来たのだから、片足が裸足のままでゴールを目指そう――。私は後者を選択しました。走り出し、やっとゴールラインにたどり着いたと思ったら、そこは次のレースのスタートラインだったのです。私は再び走り出しました。
すると前方に給水場が見えます。テーブルの上に置いてある紙コップの水を飲み干すと、今度は競技委員の方から「ここから競技はマラソンから競歩に変わります」とコールされました。仕方ない、競歩選手になって、前に進もう。
ざっとこれが我が47年の職業人人生です。銀行・証券会社・資産運用会社という金融業界をマラソンとするなら、現在働いているメディア業界が競歩にあたります。
ここで大切なことはマラソンランナーであれ競歩選手であれ、自分の力で走りきれる、歩ききれることではないでしょうか。ビジネス環境のせいにするまえに、自身の自立ではないでしょうか。
マラソンの話に続き、クラシックカーの話をすることもたびたびです。それは、私自身の目指す姿がクラシックカーと重なったからでした。
60代の10年間、私はスイス・ジュネーブに本社のある日本法人に勤務していました。本社の祖業がプライベート・バンキングビジネスであり、機会があればジュネーブに渡り、本場のプライベートバンカーからビジネスの真髄を学びたいと思いました。
思いがかない、ジュネーブ出張が実現し、プライベートバンカーから直接その真髄を聞き出すことができました。目的は達成しました。しかし、私にはそれ以上の収穫がありました。ジュネーブ本社の玄関脇には一台の車が停まっていました。一目見て、それがクラシックカーとわかりました。
ぶしつけにも「この車に乗ってみたい」と伝えたところ、首尾よく乗せていただき市内を巡りました。本社に戻って運転手さんにお礼を言うと、運転手さんは自慢げに「見てください、この車にはナンバープレートがついています。だから公道を走れます。公道を走れなくてはクラシックカーと呼べません。ただ、クラシックカーにはひとつ難点があります。部品が欠品。部品が無いのです。もし必要なら、たとえネジ1本でも自分でつくらなければなりません。さらにクラシックカーは、新車とは違う価値があり、新車をしのぐ価格でなければ。」と言いました。
私は、その瞬間、「自分が目指すロールモデルはこれだ。クラシックカーだ。」と心のなかでさけびました。「私にとって部品とは、これまで積み重ねてきた500回の研修講師経験と400本のコラム執筆だ。」と。私は今、クラシックカーになって公道を走り続けています。