finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
こたえてください支店長~投信窓販における顧客本位を実現するために~

「お客さまがお怒りです! 助けてください支店長!」

森脇 ゆき
森脇 ゆき
フィデューシャリー・パートナーズ 代表
2024.06.21
会員限定
「お客さまがお怒りです! 助けてください支店長!」

投信販売に徹底した顧客本位の姿勢が求められる中、現場からは戸惑いや不安の声も聞かれます。若手、ベテランを問わず真のフィデューシャリー・デューティーを実現するにはどうすればいいでしょうか。これまで2000人以上のお客さまに「あなたのための」資産アドバイスを行ってきた株式会社フィデューシャリー・パートナーズの森脇ゆきさんが、皆さんのお悩みに答える連載、第8回目です。

Q:職員「お客さまがお怒りです! 助けてください支店長!」

A: 支店長「お客さまがお怒りなのはなぜですか? 何について怒っているのですか?」

森脇's Answer:

支店長が直接的にお客さまからのクレーム対応を求められる場面は多くないかもしれませんが、現場においては実に日常茶飯事です。

クレームを受けた際にまず行うべきことは、何を訴えているのか、どのような経緯であるのかなど、状況をよく確認することです。特にお怒りのときこそ、「慌てない」「怖がらない」、そして「話を聞く」ことが大切です。

対応者は、相手が怒っていることに注目するのではなく、積極的な姿勢でお話を聞くことによって、その訴えが事実に基づく苦情なのか、あるいは言い掛かり(カスタマーハラスメント、以下カスハラ)に過ぎないものなのかを判別することが大切です。これにより、相手をお客さまとして扱うのか否かという対応の基本方針を決めることができます。ただ、事実に基づく苦情であっても、こちらの対応方法や経過によってカスハラへと悪化してしまうこともあり得るので注意が必要です。

言い掛かりであれば、こちらが怖がってしまうと相手の思う壺です。そうならないためには、担当者単独ではなく組織として毅然と対応する必要があります。一方で事実に基づいた苦情を訴えている場合には、お客さまの思いを推し量れば、慌てたり怖がったりする必要がないことが分かるはずです。嫌な思いをしたことを真剣に話そうとするために、緊張して強い口調になることは少なくありません。怒りの感情を言葉に乗せることでさらに怒りが加速することもありますし、秘めていた気持ちを少しだけ出そうとして涙が出て止まらなくなることもあるでしょう。このように感情がコントロールできないことは誰にでもあることだと理解し、相手の怒りや悲しみに巻き込まれないようにしつつ、その訴えている内容を捉えるように注力します。

話を聞く心構えとして、以下に挙げる3つのポイントを意識して対応するとよいと思います。

①当事者意識を持つ ②顧客の側に立つ ③お詫び・お礼の気持ちを持つ

投信窓販における苦情対応は、クレームか事実かの判別が難しい

投信窓販においても、クレームが事実に基づく苦情であるのか、言い掛かりなのかをまず判別する必要があることは他の業務と同様です。ですが、その判別がしにくい場合が多いのが特徴です。というのも、投資信託は時価評価がマイナスになったことがきっかけとなってクレームを申し入れる場合が多く、その時点では販売時から相当程度の時間が経過しているからです。ただでさえ記憶が曖昧になっている可能性も高い上に、販売した経緯ややり取りの詳細を確認しようにも、異動や転勤、退職・休職などで販売担当者が当該支店にいないことも少なくありません。そうなると、販売時やフォロー時の記録によって対処しなければいけませんから、記録を取っておくことの重要性は強調しておきたいと思います。

では、どのようなことを記録しておけば良いのでしょうか。苦情の申し出としてよくあるものを以下に掲げました。これらを意識しつつ、お客さまに説明・ヒアリングを実施して記録すると良いでしょう。

■リスクの大きさについての理解不足
 ……「こんなに多額のマイナスになるとは思わなかった」
■相場変動についての理解不足
 ……「こんなにすぐにマイナスになるとは思わなかった」
   「初心者向けの安定している商品はマイナスにならないと思った」
■手数料の理解不足
 ……「こんなに手数料が引かれていたなんて知らなかった」
■家族からの訴え
 ……「高齢者にこんなに危ない(手数料の高い)商品を販売していいのか」

ただ実際のところ、このようなポイントを押さえてお客さまとのやりとりを詳細に記録していることは多くないだろうと考えられます。その理由の一つに、投信販売にかかる事務処理負担の重さがあります。さまざまな法定書類を用意・整理しなければならない中で、丁寧に記録を残そうとすればそれだけ時間がかかり、他の業務に影響が出ます。目先の効率性を優先すれば、法令違反にならない最低限の文言を記録するようにして時間短縮を図ることになりがちです。

このように、義務付けられた書類は完備しつつ、一方で具体的で詳細とは言いがたい記録しか残していない金融機関は、お客さまからの訴えをそれが事実に基づく苦情であったとしても真摯に受け止めることなく、ふいにしているのが実態と言えるでしょう。

苦情対応を日常業務として位置づける

事実に基づく苦情は組織の宝であり、今後の改善策を検討できるチャンスです。しかしながら、それらに向き合いきちんと処理していないと、改善の機会を失い、同じ問題が延々と繰り返されてしまいます。また、本来の苦情とカスハラとをしっかり区別した対処を行なっていなければ、カスハラ対策ガイドライン等を策定して公表することも難しいでしょう。対外的にカスハラ対策を掲げることは一定の抑止効果があるようですから、そのような手段を取ることができないというのは経営上のマイナスでもあります。苦情やカスハラに直接対応する職員の負担も深刻な問題です。そのような対応に勤務時間を割かれるだけでなく、心身の負担が重なれば休職や退職につながってしまいます。

苦情やカスハラをめぐる問題は、ひとえに苦情対応が日常業務とは見なされていないことにあると言えるでしょう。苦情を報告することで、支店や部署や職員個人の評価に負の影響が出ることを恐れたり、他の業務を圧迫するほど事務負担が増えたりするようであれば、その情報は本部へと伝達されることなく、できるだけ現場で個々の職員の手で完結されるようになります。現場での苦情は大小さまざま毎日のように発生していますが、経営陣が把握して組織の知恵として蓄積されるものはごくわずかなのです。

毎日のように発生するものなのですから、その対応も日常業務として扱い、その実績を積極的に吸い上げていくことが必要です。そうすれば苦情とカスハラの区別、あるいは苦情からカスハラに発展するケースを判別し、それぞれどう対処すべきかを学ぶ手掛かりになります。知見がたまればより少ないリソースでも対処できるようになり、改善策が実施されれば発生件数自体を減らす効果も期待できます。職員の負担も軽くなり、また孤独に陥らずチームで協力した対応がしやすくなることも大きなメリットとなります。さらに、実態に即したカスハラ対策を対外的にも打ち出すこともできるでしょう。ここに、現場の長である支店長の果たす役割は甚大です。

たとえお客さまが怒鳴り込んできたとしても、その声をすくい取る(言い掛かりには毅然と対応する)ことができるよう、現場職員の冷静な対応を組織の知恵と協力体制が力強くバックアップしてくれることを期待しています。

Q:職員「お客さまがお怒りです! 助けてください支店長!」

A: 支店長「お客さまがお怒りなのはなぜですか? 何について怒っているのですか?」

森脇's Answer:

支店長が直接的にお客さまからのクレーム対応を求められる場面は多くないかもしれませんが、現場においては実に日常茶飯事です。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #フィデューシャリー・デューティー
  • #投信窓販
前の記事
「支店長! 正直なところ顧客本位と顧客満足の違いが分かりません」
2024.05.17
次の記事
「支店長! 顧客本位で考えれば、アクティブファンドよりも手数料の安いパッシブファンドを案内すべきではないですか?」
2024.07.22

この連載の記事一覧

こたえてください支店長~投信窓販における顧客本位を実現するために~

「支店長! 売れ筋の投資信託を3つ覚えて売れるようになりました。全ての商品を覚える必要はありますか?」

2025.04.25

「支店長が代わると方針や雰囲気が変化して戸惑います! 」

2025.03.21

「支店長! 本音が知りたいです! 顧客本位と成果(収益)のバランスをどのように考えていますか?」

2025.02.21

「支店長! 他の金融機関と比較して、投信の取扱商品が少ないので投資の案内がしにくいです!」

2025.01.24

「支店長! 今年は日銀が金利を上げてきましたが、お客さまに提案する商品に変化はありますか?」

2024.12.20

「支店長! 60 歳男性に対して投資信託の商品は何を提案するのが正解ですか?」

2024.11.22

「支店長! 投資信託の購入金額がNISAの枠内になってしまい、大口での契約が取りにくいです」

2024.10.25

「支店長! 投資信託の定時定額購入はお客さま本位の提案だと思うのですが、一括購入は違うと思いませんか?」

2024.09.20

「支店長! 投信のマイナスフォローが精神的につらすぎます。怖いです!」

2024.08.23

部下からの素朴でド直球な質問に答えられますか?
人気連載「こたえてください支店長」まとめ読み

2024.08.13

おすすめの記事

みずほ銀行の売れ筋上位で異質な強さをみせる「ゴールド」、新たに浮上したファンドとは?

finasee Pro 編集部

今月スタートした「投資運用関係業務受託業」を金融庁が激推し!金融機関に勤める中堅・若手の有望な移籍先に?

川辺 和将

マン・グループの洞察シリーズ⑧
マーケット・タイミングの有効性

新規設定ファンドは2年ぶりの低調、トランプ関税の混乱でも注目を集めたファンドは?=25年4月新規設定ファンド

finasee Pro 編集部

三井住友銀行の売れ筋に見える変化、トランプ関税による世界株安でも安定的な動きを続けた人気ファンドとは?

finasee Pro 編集部

著者情報

森脇 ゆき
もりわき ゆき
フィデューシャリー・パートナーズ 代表
信用金庫の預金業務担当を経て信託銀行に勤務、個人向け資産アドバイスを担当。担当総顧客数は約2000人、不動産・相続相談を含む総合的な資産アドバイスを経験する。深く学ぶにつれて、働く意義、社会貢献、自分にとっての良い仕事とお客さまの最善の利益を追 求するため、独立を決意。2018年、フィデューシャリー・パートナーズを設立。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
今月スタートした「投資運用関係業務受託業」を金融庁が激推し!金融機関に勤める中堅・若手の有望な移籍先に?
新規設定ファンドは2年ぶりの低調、トランプ関税の混乱でも注目を集めたファンドは?=25年4月新規設定ファンド
みずほ銀行の売れ筋上位で異質な強さをみせる「ゴールド」、新たに浮上したファンドとは?
三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」を再評価、「S&P500」をパフォーマンスで圧倒した人気ファンドとは?
野村證券の売れ筋で「国内株」の人気は浮上、「S&P500」が急落する中で踏みとどまったファンドとは?
マン・グループの洞察シリーズ⑧
マーケット・タイミングの有効性
【NISA対象】「日本を根っこから元気に」R&Iファンド大賞受賞のひふみ投信・ひふみプラス、投資家にとっての注目ポイントは…
【みさき透】視界不良の「プラチナNISA」、意外に響くネットの評判 
三井住友銀行の売れ筋に見える変化、トランプ関税による世界株安でも安定的な動きを続けた人気ファンドとは?
【金融庁企画室長 今泉氏が語る】金融事業者に期待する地域貢献とプロダクトガバナンスの実践
野村證券の売れ筋で「国内株」の人気は浮上、「S&P500」が急落する中で踏みとどまったファンドとは?
【みさき透】視界不良の「プラチナNISA」、意外に響くネットの評判 
三菱UFJ銀行の売れ筋で「日経225」と「S&P500」を再評価、「S&P500」をパフォーマンスで圧倒した人気ファンドとは?
「外国株式型」の純資産が3カ月連続で減少して資金流入にも陰り、パフォーマンスでは「ゴールド」(為替ヘッジあり)が好調=25年4月投信概況
【NISA対象】「日本を根っこから元気に」R&Iファンド大賞受賞のひふみ投信・ひふみプラス、投資家にとっての注目ポイントは…
三井住友銀行の売れ筋に見える変化、トランプ関税による世界株安でも安定的な動きを続けた人気ファンドとは?
プラチナNISAだけじゃない!「立国議連」提言書で見逃せない注目ポイント3選
プラチナNISA新設に現実味、金融庁の懸念は業界がつい先送りした”アレ”の管理【オフ座談会vol.3:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
マン・グループの洞察シリーズ⑧
マーケット・タイミングの有効性
国内投資促進の圧力が高まる?議連提言書と新資本主義会議が示した機関投資家への「期待」とは
新潟との地銀越境統合は成功するか? 群馬県の金融事情【金融風土記】
プラチナNISA新設に現実味、金融庁の懸念は業界がつい先送りした”アレ”の管理【オフ座談会vol.3:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
プラチナNISAの創設案が映す「森信親イズム」の終焉
「支店長! 売れ筋の投資信託を3つ覚えて売れるようになりました。全ての商品を覚える必要はありますか?」
プラチナNISAだけじゃない!「立国議連」提言書で見逃せない注目ポイント3選
シニア向け「プラチナNISA」で毎月決算型も解禁? 毎月決算型の選び方と使い方
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
③トランプ関税でボラティリティが高まる今こそ能動的なフォローを
【連載】藤原延介のアセマネインサイト
⑲高齢者向けNISA創設の報道で再注目される毎月分配型ファンド
野村證券の売れ筋で「国内株」の人気は浮上、「S&P500」が急落する中で踏みとどまったファンドとは?
NISAで高齢者に毎月分配型解禁へ 制度の進化か参院選対策か、それとも「自民党・ネオ宏池会」の野望か 
【緊急座談会・みさき透とその仲間たち】
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら