Q:職員「お客さまがお怒りです! 助けてください支店長!」
A: 支店長「お客さまがお怒りなのはなぜですか? 何について怒っているのですか?」
森脇's Answer:
支店長が直接的にお客さまからのクレーム対応を求められる場面は多くないかもしれませんが、現場においては実に日常茶飯事です。
クレームを受けた際にまず行うべきことは、何を訴えているのか、どのような経緯であるのかなど、状況をよく確認することです。特にお怒りのときこそ、「慌てない」「怖がらない」、そして「話を聞く」ことが大切です。
対応者は、相手が怒っていることに注目するのではなく、積極的な姿勢でお話を聞くことによって、その訴えが事実に基づく苦情なのか、あるいは言い掛かり(カスタマーハラスメント、以下カスハラ)に過ぎないものなのかを判別することが大切です。これにより、相手をお客さまとして扱うのか否かという対応の基本方針を決めることができます。ただ、事実に基づく苦情であっても、こちらの対応方法や経過によってカスハラへと悪化してしまうこともあり得るので注意が必要です。
言い掛かりであれば、こちらが怖がってしまうと相手の思う壺です。そうならないためには、担当者単独ではなく組織として毅然と対応する必要があります。一方で事実に基づいた苦情を訴えている場合には、お客さまの思いを推し量れば、慌てたり怖がったりする必要がないことが分かるはずです。嫌な思いをしたことを真剣に話そうとするために、緊張して強い口調になることは少なくありません。怒りの感情を言葉に乗せることでさらに怒りが加速することもありますし、秘めていた気持ちを少しだけ出そうとして涙が出て止まらなくなることもあるでしょう。このように感情がコントロールできないことは誰にでもあることだと理解し、相手の怒りや悲しみに巻き込まれないようにしつつ、その訴えている内容を捉えるように注力します。
話を聞く心構えとして、以下に挙げる3つのポイントを意識して対応するとよいと思います。
①当事者意識を持つ ②顧客の側に立つ ③お詫び・お礼の気持ちを持つ
投信窓販における苦情対応は、クレームか事実かの判別が難しい
投信窓販においても、クレームが事実に基づく苦情であるのか、言い掛かりなのかをまず判別する必要があることは他の業務と同様です。ですが、その判別がしにくい場合が多いのが特徴です。というのも、投資信託は時価評価がマイナスになったことがきっかけとなってクレームを申し入れる場合が多く、その時点では販売時から相当程度の時間が経過しているからです。ただでさえ記憶が曖昧になっている可能性も高い上に、販売した経緯ややり取りの詳細を確認しようにも、異動や転勤、退職・休職などで販売担当者が当該支店にいないことも少なくありません。そうなると、販売時やフォロー時の記録によって対処しなければいけませんから、記録を取っておくことの重要性は強調しておきたいと思います。
では、どのようなことを記録しておけば良いのでしょうか。苦情の申し出としてよくあるものを以下に掲げました。これらを意識しつつ、お客さまに説明・ヒアリングを実施して記録すると良いでしょう。
■リスクの大きさについての理解不足
……「こんなに多額のマイナスになるとは思わなかった」
■相場変動についての理解不足
……「こんなにすぐにマイナスになるとは思わなかった」
「初心者向けの安定している商品はマイナスにならないと思った」
■手数料の理解不足
……「こんなに手数料が引かれていたなんて知らなかった」
■家族からの訴え
……「高齢者にこんなに危ない(手数料の高い)商品を販売していいのか」
ただ実際のところ、このようなポイントを押さえてお客さまとのやりとりを詳細に記録していることは多くないだろうと考えられます。その理由の一つに、投信販売にかかる事務処理負担の重さがあります。さまざまな法定書類を用意・整理しなければならない中で、丁寧に記録を残そうとすればそれだけ時間がかかり、他の業務に影響が出ます。目先の効率性を優先すれば、法令違反にならない最低限の文言を記録するようにして時間短縮を図ることになりがちです。
このように、義務付けられた書類は完備しつつ、一方で具体的で詳細とは言いがたい記録しか残していない金融機関は、お客さまからの訴えをそれが事実に基づく苦情であったとしても真摯に受け止めることなく、ふいにしているのが実態と言えるでしょう。
苦情対応を日常業務として位置づける
事実に基づく苦情は組織の宝であり、今後の改善策を検討できるチャンスです。しかしながら、それらに向き合いきちんと処理していないと、改善の機会を失い、同じ問題が延々と繰り返されてしまいます。また、本来の苦情とカスハラとをしっかり区別した対処を行なっていなければ、カスハラ対策ガイドライン等を策定して公表することも難しいでしょう。対外的にカスハラ対策を掲げることは一定の抑止効果があるようですから、そのような手段を取ることができないというのは経営上のマイナスでもあります。苦情やカスハラに直接対応する職員の負担も深刻な問題です。そのような対応に勤務時間を割かれるだけでなく、心身の負担が重なれば休職や退職につながってしまいます。
苦情やカスハラをめぐる問題は、ひとえに苦情対応が日常業務とは見なされていないことにあると言えるでしょう。苦情を報告することで、支店や部署や職員個人の評価に負の影響が出ることを恐れたり、他の業務を圧迫するほど事務負担が増えたりするようであれば、その情報は本部へと伝達されることなく、できるだけ現場で個々の職員の手で完結されるようになります。現場での苦情は大小さまざま毎日のように発生していますが、経営陣が把握して組織の知恵として蓄積されるものはごくわずかなのです。
毎日のように発生するものなのですから、その対応も日常業務として扱い、その実績を積極的に吸い上げていくことが必要です。そうすれば苦情とカスハラの区別、あるいは苦情からカスハラに発展するケースを判別し、それぞれどう対処すべきかを学ぶ手掛かりになります。知見がたまればより少ないリソースでも対処できるようになり、改善策が実施されれば発生件数自体を減らす効果も期待できます。職員の負担も軽くなり、また孤独に陥らずチームで協力した対応がしやすくなることも大きなメリットとなります。さらに、実態に即したカスハラ対策を対外的にも打ち出すこともできるでしょう。ここに、現場の長である支店長の果たす役割は甚大です。
たとえお客さまが怒鳴り込んできたとしても、その声をすくい取る(言い掛かりには毅然と対応する)ことができるよう、現場職員の冷静な対応を組織の知恵と協力体制が力強くバックアップしてくれることを期待しています。