Q:職員「支店長! 顧客本位で考えれば、アクティブファンドよりも手数料の安いパッシブファンドを案内すべきではないですか?」
A: 支店長「対面の金融機関で購入を検討してくださるお客さまであれば、むしろアクティブファンドを求めることが多いと思いますよ」
森脇's Answer:
このような疑問を持っている職員は、きっと勉強熱心なのだろうと思います。投資に関する書籍を読んだりSNS等から情報収集したりして、自分でも低コストのパッシブファンドを購入しているのかもしれません。自分が良いと思った商品をお客さまに案内したくなるのは悪いことではありません。むしろ、お客さまのために活動したいと考えている善良な職員だと言えるでしょう。 ただ、ここで気をつけなければいけないことが2つあります。一つは、職員の価値観とお客さまの価値観が同じとは限らないこと、もう一つは巷には偏りのある情報があふれているということです。つまり、お客さまに自分の価値観を押し付けてもいけませんし、世間一般で持てはやされているものを案内すれば良いというわけでもないのです。 筆者は顧客本位を解説する際に「家族に接するように」と表現することがありますが、より正確には「プロとして家族に接するように」と言うべきかもしれません。
社会に対する投票行動としての投資
投資は、経済の血液であるお金が巡る先を考え、その結果としてどのような社会を実現したいのかを選ぶ投票行動でもあります。しかし、多くの人は投資を単に資産形成やもうかる手段として考えがちです。書籍・雑誌やウェブ上の記事でも、いかに手数料を安く抑えて大きな利益を得るかばかりが語られ、投資の本来の意義に触れない言説がはびこっています。 一方で、そのような自己の利益をひたすら追求する営みとしての投資に嫌悪感を覚えたり、いぶかしさを感じたりする人も決して少なくないのです。そのような人は、投資を敬遠したり、二の足を踏んだりしています。
そうでなくても、多くの人は何かしら社会の役に立ちたい、と考えています。 対面の金融機関は、このようなお客さまに、その社会的な意義に目を向けた投資活動をサポートしていく役割を担っています。お客さまご自身が応援したい企業や業界に想いを巡らし、共感できる投資哲学を掲げる投資信託を選んでいくガイドをするのです。そして、投資したお金が、経済の循環の中で役に立っているということを実感していただくことができれば、お客さまの投資に関する視野は広がり、より積極的に投資に臨んでいくことになるでしょう。
このように考えれば、低コストパッシブファンドが投資の正解なのではなく、一つの手段に過ぎないことが分かるはずです。コストが低いこと自体は投資する人にとってメリットですが、自分の投じたお金がどこに回るのかよく分からないのが難点だと言えます。極端な例を挙げれば戦争犯罪など、お客さまの価値観に照らして到底容認できない行いに加担する企業や国への投資が含まれる可能性もあるのです。そうではなく、自分の意志を反映した投資を検討するのであれば、明確な投資哲学を掲げたアクティブファンドは有意義な投資対象となります。
とはいえ現状は、明確な投資哲学もなく高コスト、あるいは投資哲学はあるものの内容が伴っていないアクティブファンドも多数存在するので注意が必要です。
人は価値を感じるものにお金を払う
アクティブファンドは比較的コストの高い商品が多いです。顧客本位を考えるとお客さまへの案内をためらってしまいがちですが、決してそんなことはありません。人は必ずしも安いものを選択するわけではなく、価値を感じることができれば高額なものでも買うものです。100円と1000円の園芸用ばさみがあるとします。ベランダでミニトマトの鉢植えが1つある人と、家庭菜園が趣味でたくさんの野菜を育てている人ではハサミに対するこだわりが違うでしょう。つまり、誰もが安い100円のハサミを選ぶわけではなく、その選択には、価格以外の個々人の価値観が関わってきます。だからこそ、お客さまに適切な提案するためには、その価値観を十分にヒアリングする必要があるのです。自分の価値観を基準として「安い方が良い」と決めつけてしまうのは、顧客本位とは言えないのです。
対面金融機関の提供できる価値
投資の成果は未来にならなければ分からないからこそ、多くの人が不安を抱きやすく、そのような心理につけこんで正解・不正解を断定的に論じる言説やビジネスが横行しています。窓販業務についても、一部の不適切な販売についての批判が、窓販全体へと必要以上に拡大されてしまっているように思います。これは業界全体の萎縮を招いていると言えるでしょう。また、お客さまのニーズに応える可能性を持つ高コストアクティブファンドや分配金などがそれ自体悪であるとみなされるなど、顧客本位の業務運営が捻じ曲げられて解釈されている傾向も見受けられます。このような状況から、対面の金融機関が本来果たすべき役割が損なわれているのではないかと私は懸念しています。
投資に正解はありません。万人に適合する商品もありません。
低コスト重視の投資をしたい方は、インターネット専業の証券会社等を利用することが多いでしょう。対面の金融機関に足を運んでくださるお客さまは、それとは違う価値を求めていらっしゃるのです。私たちが提供できるのは、そのようなお客さまに、価値観に合った投資ができるように案内し、組織力で長期にわたってサポートすることなのです。
ネット証券より手数料の高いパッシブファンドをお願い営業で販売するのではなく、お客さまとコミュニケーションを重ねるなかで投資哲学に共感できるアクティブファンドを案内するなど、お客さまに喜んでいただくことが重要です。そのような経験を積み重ねることで、自分たちの仕事はお客さまのお役に立てるのだと実感できれば、プロとしてさらに学び顧客本位で知恵を絞る営みが継続します。そのように価値を提供する結果として、窓口販売の収益は上がるのです。
対面の金融機関を利用してくださるお客さまにその価値を提供できるよう、まずは自金融機関のラインアップがどのようなものか、改めて把握することが大切です。