Q:職員「支店長! 新入職員の自分は雑用ばかりでツライです。早く戦力になりたいです!」
A: 支店長「仕事に雑用など存在しませんよ。どんなことでも大切な仕事なのです。ですから、あなたは十分に仕事をしてくれていますよ」
あらゆる仕事が大切なものであることを伝えるのは良いことですが、それを実感してもらうためには、もう少し丁寧に対話をする必要があるでしょう。
森脇's Answer:
仕事の捉え方は人によって違う
やりがいを持つために必要なのは「俯瞰的な視野」
このような問いを直接支店長にぶつける職員は多くはないでしょうが、目の前の仕事にやりがいを感じられずに悩みを抱える新入職員は少なくありません。金融の仕事に夢や希望を持ち、やる気がある職員ほど深刻に悩む場合が多いようです。同僚や先輩に不満を訴える場合もありますが、誰にも相談せず静かに退職する職員もいます。長らく金融機関の現場で働いてきた筆者は、そのような光景を幾度も目にしてきました。
どこの現場でも繰り返されがちなこの問題に対して、支店長はどのように対処すればよいのでしょうか。金融機関の業務は多岐にわたり、多くの知識と経験の積み重ねが求められますから、新入職員に任せる仕事はどうしても断片的なものになりがちです。だからといって、そこにやりがいを見出せない職員の悩みに目をつぶるわけにはいきません。ともすれば、「我々が若手だった頃は、言われた仕事を何でもやってきた」「最近の若者は自己主張が多い」と反感を覚えたり、「注意するとすぐ辞めてしまう」という不安から若手職員に何も言えなかったりするかもしれません。しかし、そのような上司の下では、悩んでいる職員本人だけでなく他の職員のやる気もそがれ、支店全体の業務の質の低下につながります。さらに言えば、若手職員の声に耳を傾けずして、時代の変化やお客さまの多様性に対応することなどできるでしょうか。
どんな仕事であっても目の前の仕事に意義を見出し、先々の成果へとつなげていくために重要なのが、俯瞰的に考えるということです。
旅人と3人のレンガ積みの話をご存知でしょうか。旅人がレンガを積んでいる3人の職人と出会います。旅人からの「何をしているのですか」という問いに対して、
一人目の職人は「見ればわかるだろう、レンガを積んでいるのだ」
二人目の職人は「塀を作っているのだ」
三人目の職人は「歴史に残る偉大な大聖堂を作っているのだ」
と答えたというお話です。
3人とも全く同じ作業をしているのに、その捉え方は大きく異なるわけです。そして、金融機関の職員は日本全国でほぼ同じ仕事をしています。提供している商品数や金利に多少の違いはあれど、おおむね同じような商品・サービスを取り扱っていると言ってよいでしょう。このような前提のもと、読者の皆さまはどのような姿勢で仕事に向き合いますか。また、部下に期待するのはどのような意識でしょうか。
例えばコピーを取るという作業について、単に「コピーをしている」のではなく「会議で使う資料を人数分コピーしている」と捉え、さらには「お客さまの資産形成のお手伝いをするための準備をしている」とまで考えて取り組むことができれば、素晴らしいことです。このように広い視野で仕事を捉えられれば、冒頭の問いのような不満は出にくいでしょう。
俯瞰的に考えることは、顧客本位の活動をするために決定的に重要なことです。顧客本位の活動において、正解は常に目の前のお客さまにしかありません。お客さまの人生全体を広く見渡しながら、お客さまに資する仕事とは何なのか、自金融機関はあるべき役割を担えているのか、自分たちの仕事や組織の存在意義に立ち返りながら創意工夫していくことが求められるのです。
悩める職員に、このように目の前の仕事を俯瞰的に捉え、やりがいを持ってもらうためには、その仕事が雑用ではない大切な仕事だと伝えるだけでは十分ではありません。組織全体が俯瞰的な視野を持って運営されている、すなわち常に経営理念に立ち返りながら日々の業務が行われていることが必要です。NISA口座の開設を受託することについて、「今月の獲得目標件数を達成できるかどうか」ばかりが注目されるような職場では、「お客さまの資産形成のお手伝いをさせていただく」といった発想ややりがいは生まれません。
新入職員が求めているのは
自身の不満に真摯に向き合ってくれる先輩や上司
新入職員に実務を教えるのは支店長の仕事ではありませんが、かと言って人材育成を部下に任せきりにしておいて良いわけではないでしょう。折に触れては職員の仕事の様子を見て声掛けをするといったことが、現場の働きに少なからぬ良い影響を与えると筆者は考えています。支店長が現場の自分たちのことを気に掛けてくれているという安心感は、お客さまのために働く現場職員の創意工夫をより一層深いものにします。また、職員の不満や不安に対しては、真剣に応えてください。新入職員が求めているのは、目の前の不満が直ちに解消されることよりも、それに本音で向き合ってくれる先輩や上司が近くにいることなのかもしれません。このような環境があればこそ、顧客本位を実践して価値を生み出す人材へと成長してくれるものと信じましょう。