Q:職員「支店長! 新聞での情報収集なんて時代錯誤ですよね? 読まなくていいですよね?」
部下からのこの質問に、あなたならどう答えるでしょうか。
A: 支店長「我々の仕事の一つは、世の中にあふれるたくさんの情報を収集して、一人ひとりのお客さまに合ったものを取捨選択してお伝えし、お客さまが目的を達成するお手伝いをすることです。ですから情報収集の手段は新聞も含めて複数あると良いと思っています」
森脇's Answer:
客観的で幅広い情報を得ることで
お客さまから「もっと質問してみたい」と思われる職員に
インターネットが普及した現在は、無料で取得できる情報があふれています。新聞のような旧来のメディアから情報を取るのは古いという風潮は確かにあるでしょう。新聞は読まずに、主にインターネットで収集できる無料の情報のみで営業活動をしている金融機関職員も増えているものと思います。では、それで十分なのかと言えば、全くそのようなことはありません。インターネット上の情報は手軽に入る一方で、その内容は実に玉石混淆です。特定の立場や意見に大きく偏っているなど、信頼性に乏しいものも少なくありません。新聞にも偏りが全くないとは言いませんが、基本的には事実やデータに基づいた記事が掲載されており、執筆者の見解や予測などを割引いて読めば、一定の信頼を置くことができます。社会や経済の全体を見渡すことができるという網羅性も、自分で取りにいった情報しか得られないインターネットでの情報収集と比較して、新聞の優れている点と言えるでしょう。
情報収集について考えるにあたり、投資信託の販売会社である金融機関の職員として私たちが行うべき仕事とは何かについて、改めて考えてみてください。それは、株価や為替の相場を予想して投資商品の売買提案をすることではありません。お客さまの投資目的やニーズ、リスク許容度を確認し、お客さまが納得して投資活動をするための案内をすること、さらに長期投資を継続していくためのフォローをすることです。
「投資は素人」と言うお客さまでも、日々さまざまな投資に関わる情報に接しているものです。ほとんどの場合、断片的で偏った情報なのですが、お客さまはそれらをもとに、その方なりの問題意識を抱いて投資や資産形成について話をするわけです。私たちはお客さまの言葉に点在する情報をつなぎ合わせて理解し、その考えや関心をくみ取ることが必要です。日ごろから幅広く情報を収集する活動は、ここに生きてくるのです。そして、場合によっては不足している情報や関連する周辺知識を補いつつ説明し、お客さまに合う投資方法や商品の案内をしていくことになります。
情報収集力が不十分な職員は、自分の知らない情報をお客さまが話すと会話を継続する自信がなくなる傾向があります。そのような職員と接したお客さまは「これ以上聞いてはいけないかな」と思い、距離を置いてしまうことも多くあります。それに対して、情報の引き出しが多く、お客さまが発したあいまいな情報を順序だてて解説してくれる職員には「もっと質問してみたい」と思うものです。
情報源の特徴を把握し、使い分ける
社内での情報共有も有効
金融機関職員の皆さんは日経新聞を読んでいることが多いと思いますが、投資信託提案と継続フォローにどのように役立てることができるのか、筆者の情報収集と活用例を紹介しますので参考にしてみてください。情報源として、基本となるのは次の三点です。それぞれの特徴を把握し、使い分けながら情報を収集します。
・日経新聞:短期の相場情報、世界の経済情報を網羅的に知る
・投資信託の月次レポート:先月の運用情報を振り返る
・インターネット:欲しい情報をピンポイントで検索する
日経新聞に書かれている記事は最新の相場動向、経済状況が書かれています。中には未来の予想や予定などが含まれていますが、主に起こった事実のみを確認するようにしています。念頭に置いていただきたいことは、日々の相場変動はノイズであり一喜一憂してはいけない、ということです。短期的な変動を気にしないとはいえ、それでも新聞を読むのは毎日お客さまと面談するからです。最近の相場変動要因について聞かれたときに答えられないようでは、お客さまからプロとして認めてもらえません。
また、新聞は世界の経済状況を網羅的に確認できます。世界の経済は各国の政治や企業の動向など実にさまざまな事象が影響しあって変化します。日経新聞から得られる情報を継続的に定点観測しつつ、お客さまには情報を長期的な時間軸で捉え直して案内をします。そのため、日経新聞は時々読めばよいものではなく、日々読んでこそ点と点を中長期的な線につなげて把握することができ、お客さまの目的に寄り添うサポートができると筆者は考えています。
日経新聞を初めて読む職員は、現在に至るまでの時系列に沿った知識を持ち合わせていないため、そこにあるニュースを長期的な視座で捉えることが難しいでしょう。先輩職員を交えて日経新聞の読み合わせを行えば、必要な背景知識の共有もでき、習慣化にも役立ちます。筆者は新入社員の自主的な求めにより有志の早朝新聞読み合わせを約7年間実施してきましたが、それはまるで部活のように楽しい活動でした。
お客さま本位の営業活動をするには「お客さまを知る」ことが欠かせません。そのためには、尋問のようなヒアリングや画一的なアンケート用紙だけでは十分ではなく、お客さま自身が開示した精度の高い情報が大切です。お客さまに自己開示していただくために必要なことは、お客さまに信頼されることです。情報の引き出しが豊富であり、お客さまの関心をくみ取り疑問に答えられることは、信頼される要素の一つです。新聞を読むことを含む日々の情報収集をこのように捉えれば、その意義を感じていただけるものと思います。