finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート
こたえてください支店長~投信窓販における顧客本位を実現するために~

「支店長! お客さま本位と言いますが、収益も上げる必要がありますよね。どちらを優先すべきですか?」

森脇 ゆき
森脇 ゆき
フィデューシャリー・パートナーズ 代表
2024.02.26
会員限定
「支店長! お客さま本位と言いますが、収益も上げる必要がありますよね。どちらを優先すべきですか?」

投信販売に徹底した顧客本位の姿勢が求められる中、現場からは戸惑いや不安の声
も聞かれます。若手、ベテランを問わず真のフィデューシャリー・デューティーを実現するにはどうすればいいでしょうか。これまで2000人以上のお客さまに「あなたのための」資産アドバイスを行ってきた株式会社フィデューシャリー・パートナーズの森脇ゆきさんが、皆さんのお悩みに答える連載、第4回目です。

Q:職員「支店長! お客さま本位と言いますが、収益も上げる必要がありますよね。どちらを優先すべきですか?」

部下からのこのような質問に、あなたならどう答えますか。

A: 支店長「お客さまのご意向をよく聞いて、お客さま本位で活動してください。そして今月分の目標をしっかり達成してください」

 

森脇's Answer:

「顧客本位と収益は対立する」という考えは捨てよう

現場職員を激励するのにありがちなせりふです。どちらを優先すべきかとの問いに両方を並置して答えていますが、この支店長がどちらに重点を置いているかは明らかです。収益を上げることを優先すべきというのが本音であり、顧客本位は建前にすぎません。人事評価に関わる以上は収益を上げることは絶対の課題であり、一方で金融庁や本部からの指摘や減点の可能性を考えれば、顧客本位を軽視するかのような発言はできない……だからこのようなどっちつかずの回答になってしまうのです。そして、それを現場職員に忖度するように仕向けています。勘の良い職員はその意図を察し、顧客本位のアリバイを確保しながら営業成績を上げることに邁進するでしょうが、それでは職員の悩みに向き合っているとは言い難く、問題の多い回答であると言わざるを得ません。

そもそもこのような質問をする職員は、顧客本位について次のように考えているのでしょう。すなわち、顧客本位と収益は相反する関係にあり、顧客本位で活動していては収益など上がらない、と。そして、支店長も同様の認識をしているからこそ、前述のような回答が出てくるわけです。

しかし、実際には違います。顧客本位は収益と対立するものではありませんし、それどころか顧客本位だからこそ収益は上がっていくものなのです。金融機関の皆さんは、日頃からお客さまの企業が良いサービスや商品を提供して収益を上げているのを見てきているはずです。金融機関の取り扱う商品やサービスでも同じことが言えます。確実に収益を上げていくための答えはシンプルです。お客さまの困り事やニーズを都度把握し、それに合う金融商品があれば提供していくという営みを継続していくのです。人は生まれてから亡くなるまで、人生のさまざまな場面でお金が介在します。お客さまの人生に関わり続ける金融機関は、お客さまがいる限り価値を提供する機会があり、収益も恒久的に上がり続けるのです。

では、収益が上がるタイミング、すなわちお客さまの人生における金融の出番はいつ来るのでしょうか。それを知るために必要なものが「顧客情報」です。顧客情報といっても、ヒアリングシート等に記入いただければよいというわけではありません。ただシートに記入するだけでは十分な情報量にはなりませんし、だいたい本当の情報が得られるとは限りません。重要なのは情報の精度なのです。

精度の高い顧客情報こそが収益の根源となります。では精度の高い情報はどのようにしたら取得できるのでしょうか。それはお客さまが積極的に自己開示をすることです。お客さまの積極的な自己開示を促すにはどうすればよいでしょうか。それはまさにこちらの姿勢が顧客本位であればいいのです。

読者の皆さん自身が積極的に自己開示をする例として、医療機関にかかるときのことを考えてください。その際、問診票にはしっかりと正直に症状などを記入し、ヒアリングには丁寧に答えるはずです。それは、医師をプロフェッショナルとして信頼し、自分に対して適切な処置や治療をしてくれるよう期待するからこそです。

商品を売りたいがためにお願いセールスをしたり、巧みな営業トークで強引に契約を取り付けたりしていると、短期的には収益が上がっても、信頼を損なったお客さまはやがては離れていきます。収益の種を根こそぎ取り尽くすような焦土営業では、将来の芽は出ず、早晩行き詰ります。しかし、信頼関係という土壌を耕すことから丹念に行えば、やがて種が芽吹き、季節の花や果実が順々に咲き実るように、お客さまのそれぞれの人生に寄り添う金融機関には価値を提供すべき機会が続々と訪れ、継続的な収益がもたらされるのです。

対面金融機関の有意性を最大限活用する

最後に、精度の高い顧客情報を基にして、いかに適切な提案をしていくかについて少し触れておきます。せっかく精度の高い情報を収集できたとしても、担当者の知識が乏しく、覚えたての商品を二つ三つ案内するにとどまるようでは、お客さまの自己開示も台無しです。プロとしては、お客さまの人生に寄り添いたいという気持ちのみならず、この人に相談したいと思われる豊富な知識の引き出しが必要です。

その点で対面の金融機関は非常に有利な点を持っています。担当者が一人で対処するのではなく、チームで力を合わせて取り組むことができるからです。若手職員が取得した情報を基に、このお客さまにはどのような商品ニーズがありそうかといったことを案件会議で議論してみてください。事例に即した先輩職員の知識や経験を聞くことで、多くの引き出しを持つことができるでしょう。また、知識がまだない新入職員でもお客さまの情報を引き出すことにたけた人材は、すぐに活躍できる場ができます。

金融機関は総合力でお客さまに寄り添うものだと私は考えています。支店長には、知識・情報共有などの環境を整え、顧客本位の貫徹が継続的な価値の創出、すなわち収益へとつながるような支店作りを期待します。

投信販売に徹底した顧客本位の姿勢が求められる中、現場からは戸惑いや不安の声
も聞かれます。若手、ベテランを問わず真のフィデューシャリー・デューティーを実現するにはどうすればいいでしょうか。これまで2000人以上のお客さまに「あなたのための」資産アドバイスを行ってきた株式会社フィデューシャリー・パートナーズの森脇ゆきさんが、皆さんのお悩みに答える連載、第4回目です。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #フィデューシャリー・デューティー
  • #投信窓販
前の記事
「支店長! お客さま本位で考えれば、新NISAはネット証券の方が良いのではないでしょうか」
2024.01.26
次の記事
「支店長! 新聞での情報収集なんて時代錯誤ですよね? 読まなくていいですよね?」
2024.03.26

この連載の記事一覧

こたえてください支店長~投信窓販における顧客本位を実現するために~

「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」

2025.06.20

「支店長! ゴールベースアプローチをすれば、お客さま本位の提案になるということでよいですか?」

2025.05.23

「支店長! 売れ筋の投資信託を3つ覚えて売れるようになりました。全ての商品を覚える必要はありますか?」

2025.04.25

「支店長が代わると方針や雰囲気が変化して戸惑います! 」

2025.03.21

「支店長! 本音が知りたいです! 顧客本位と成果(収益)のバランスをどのように考えていますか?」

2025.02.21

「支店長! 他の金融機関と比較して、投信の取扱商品が少ないので投資の案内がしにくいです!」

2025.01.24

「支店長! 今年は日銀が金利を上げてきましたが、お客さまに提案する商品に変化はありますか?」

2024.12.20

「支店長! 60 歳男性に対して投資信託の商品は何を提案するのが正解ですか?」

2024.11.22

「支店長! 投資信託の購入金額がNISAの枠内になってしまい、大口での契約が取りにくいです」

2024.10.25

「支店長! 投資信託の定時定額購入はお客さま本位の提案だと思うのですが、一括購入は違うと思いませんか?」

2024.09.20

おすすめの記事

楽天証券の売れ筋「米国株」にみるパフォーマンス格差、「高配当株(SCHD)」不振の理由は?

finasee Pro 編集部

【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
③ 金融行政に本部が過剰反応?対面金融機関の役割とは

finasee Pro 編集部

SBI証券の売れ筋インデックスファンドにみえる限界、波乱の株式市場の中でパフォーマンスによって人気を集めたファンドとは?

finasee Pro 編集部

【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
② 投信窓販において収益性と顧客本位をどう両立させるか

finasee Pro 編集部

【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか

finasee Pro 編集部

著者情報

森脇 ゆき
もりわき ゆき
フィデューシャリー・パートナーズ 代表
信用金庫の預金業務担当を経て信託銀行に勤務、個人向け資産アドバイスを担当。担当総顧客数は約2000人、不動産・相続相談を含む総合的な資産アドバイスを経験する。深く学ぶにつれて、働く意義、社会貢献、自分にとっての良い仕事とお客さまの最善の利益を追 求するため、独立を決意。2018年、フィデューシャリー・パートナーズを設立。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
③ 金融行政に本部が過剰反応?対面金融機関の役割とは
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
② 投信窓販において収益性と顧客本位をどう両立させるか
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
楽天証券の売れ筋「米国株」にみるパフォーマンス格差、「高配当株(SCHD)」不振の理由は?
SBI証券の売れ筋インデックスファンドにみえる限界、波乱の株式市場の中でパフォーマンスによって人気を集めたファンドとは?
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
金融庁が「プログレスレポート2024」の公表を休止した深いワケ 「FDレポート」との違いが出せなくなった?
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
② 投信窓販において収益性と顧客本位をどう両立させるか
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入
金融庁が「プログレスレポート2024」の公表を休止した深いワケ 「FDレポート」との違いが出せなくなった?
静銀ティーエム証券の売れ筋で際立つパフォーマンスをみせた「モノポリー戦略株式」とは?
ゆうちょ銀・郵便局の売れ筋トップに新設の単位型ファンド、バランス型人気も続く
「自立と連携」を掲げて試行錯誤を重ね、確立された「銀証連携」モデルが新時代を拓く case of しずおかフィナンシャルグループ
投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
【文月つむぎ】「プラチナNISA」という言葉がない!自民党金融調査会の最新提言を読み解く
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか
いわき信組の不正を見抜けなかった金融庁、「根本的な人員不足」も背景
浪川攻の一刀両断
手数料自由化とファンドラップから見る日本と米国の証券リテール改革の相違
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら