資産所得倍増プランの骨格「木原メモ」、プロガバは最後のピース
FD(フィデューシャリーデューティー)に並び、金融業界で突如として流行語になった観のあるプロガバだが、このフレーズがFDに続いて金融庁で提唱されたのには意味がある。岸田首相が22年5月に英国の金融街シティの講演で資産所得倍増プランを打ち上げたタイミングで、官邸から金融庁にこのプランを実現するための課題を挙げたメモが渡された。取りまとめた木原誠二官房副長官にちなみ、一部で「木原メモ」と呼ばれている。
骨子は①NISAの抜本的拡充②中立的アドバイザーの創設③FDの徹底④プロガバの確立——の4つだ。このうち①は23年度税制改正で達成され、②は日銀が事務局を務める金融広報中央委員会を改組し24年に設立する金融経済教育推進機構が準備を進めている。③は既に金融機関や運用会社などに働き掛けており、足元で残るは④のプロガバのみという状況だった。
22年5月の岸田首相のシテイー講演から1年、この間の経緯を振り返ると概ね「木原メモ」の項目に沿って物事が決まっていることが分かる。「今太閤」と称される木原副長官の面目躍如といったところだ。
そうした観点に立てば、最後のピースであるプロガバの強化も一過性の動きではなく、折に触れて当局から成果を求められるだろう。岸田政権が長期化すればなおさらだ。
プロガバの狙いは「運用業等」、販社や大手金融Gが標的に
プロガバはEUの第2次金融商品市場指令(MiFIDⅡ)を基にした考え方で、金融庁が20年のプログレスレポートで取り上げたことで国内でも知られるようになった。ただ、これまで当局と運用会社の間で話題に上ることはあったが、FDに比べて注目度は低かった。
しかし、MiFIDⅡは運用会社だけでなく販売会社も含む概念で、当局の関心が販売にも向くのは当然だ。しかも、前述の通り諮問会議での首相発言は正確には「資産運用業等を抜本的に改革」となっている。
当局の狙いが販売サイドにあることは23年のプログレスレポートにも表れている。レポートの「販売会社の信頼向上のために」の章には、成績不振の投信の対応について「販売会社においては資産運用会社が抽出した不芳ファンドの繰上償還に向けて、迅速に対応することが期待される」(項番1-2-1)と明記されている。実際、ファンドの繰上償還には販売会社の協力が欠かせない。
今後、FDに加えてプロガバが前面に出ることで、金融庁と販売会社、それを主体とした金融持ち株会社との間で緊張が高まるかもしれない。不芳ファンドの繰上償還だけでなく、トップの人選がホットイッシューになれば、運用会社を傘下に持つ大手金融グループの対応が問われることになるからだ。
当局が当面の政策目的としてファンド数を整理したりトップにプロ人材を据えたりすることで、運用会社の運用力を高めようと考えているならば、販売会社がターゲットになるのは自然な流れだ。プロガバの本質は運用会社の経営体制を突くと見せて販売会社の改革を迫るものだ。
執筆/霞が関調査班・みさき透
新聞や雑誌などで株式相場や金融機関、金融庁や財務省などの霞が関の官庁を取材。現在は資産運用ビジネスの調査・取材などを中心に活動。官と民との意思疎通、情報交換を促進する取り組みにも携わる。