このイノベーションの背景を探るべく、大手証券会社でクオンツ運用の経験も持つ、同社リサーチ&クオンツ担当執行役員の牛山史朗(ふみあき)氏に話を伺った。

ウェルスナビ執行役員 リサーチ&クオンツ 牛山史朗氏
「何を買うべきか分からない」宙に浮いたNISA口座
沼田:NISA口座上でロボアドバイザーが使えるのは日本初のサービスとなりますが、誕生した背景について教えてください。
牛山:われわれは、老後の資産形成に向けた課題、とりわけ働く世代向けのサービスが十分に提供されていないという課題に対し、ウェルスナビというソリューションを提供してきました。
一方で、NISAの認知は広がりつつありますが、口座が開かれても約半分は投資されないという課題があります。その理由として、何を買ったらいいのか分からないとおっしゃる方が多くいらっしゃるので、「おまかせNISA」により、NISAを使えなかった方が使えるようになるのは大きな一歩であると考えました。「投資一任NISA口座」という意味で日本初のサービスとなりましたが、これはたまたまで、実は目指していたわけではありません。
沼田:そうだったんですね。驚いたのは、おまかせNISAの運用が非常に高品質で、使い勝手などの機能についても充実したサービスだという点でした。
牛山:運用を任せていただく以上、レベルの高いものをご提供したいと思っていて、緻密に最適化の計算を施したプロレベルの世界分散投資に仕上げたつもりです。また、NISA口座は上限があって使いにくくはあるものの、最良の使い方ができるよう、通常の口座と組み合わせた最適なポートフォリオを組めるようにしました。また、残りの非課税枠より入金額が多い場合は、ハイリスク・ハイリターンな株や不動産などの資産をNISA口座に優先的に入れるロジックも組み込む工夫をしました。
資産運用を「当たり前の存在」にするために
沼田:そのようなことまでできるのも、投資一任口座ならではですよね。
牛山:そうですね。おまかせNISAに限らず、ウェルスナビをお使いの方によく言われるのが、「知れば知るほど、細かい点にまで目が行き届いていることが分かり、より好きになる」ということです。
沼田:しかし、個人投資家でなくプロ向けの運用に携わっていた方が、使い勝手も含めて個人が本当に必要としているサービスを提供するのはなかなかできないことです。使いやすいが裏側はたいしたことがなかった、という場合も多く、プロ向けの運用を個人目線で作り直すのは難しそうですが……。
牛山:クオンツという立場で存在価値を上げようと思うと、ほかの誰も真似できない複雑なモデルをつくればいいのですが、必ずしも個人のお客さまのプラスにはならない。持てる知識やノウハウをそうした方向に使うのではなく、多くの方の役に立つサービスをつくって、喜んでいただけるほうがいいという意識でいます。
資産運用は、今や生活に必要なことのひとつになりつつあります。ロボット掃除機が気付いたらいつの間にか部屋をきれいにしているように、資産運用も、使う側が意識しなくても、気の利いたことがやってある、というふうにならなければいけない。任せていただくからには、その中でできる限り良いことをしようと考えます。
沼田:ロボット掃除機もロボット学者が作りましたよね。
牛山:ユーザーがテクノロジーの詳細な部分は理解できなくても、機能として発揮すればいいので。掃除が好きな方は自分で隅々まで掃除しますが、そうでなければロボに任せればいい。資産運用もそんなふうにお任せいただき、その分の時間とエネルギーをもっと世の中の楽しいことに使っていただければと思います。
沼田:そうですね。「実は裏側の仕組みがすごい」というのは、個人投資家はどこを見れば分かるのでしょうか。