支出さえ管理すれば、お金を残すことは容易

日本は働いている人の約9割がサラリーマンです。そして彼らの多くは「自分たちはしょせん決まった給料しかもらえないのだから、お金持ちになれるわけがない」と思っています。もしお金持ちになりたいなら、若い内に起業して上場を目指すといった具合に企業オーナーになることを考える人が多いでしょう。なぜなら世の中で、一般的に“お金持ち”とか“資産家”といわれている人たちといえば、タレント、お医者さん、そして企業経営者といったイメージだからです。

しかしながら、私は長年にわたって証券会社で投資相談の仕事をしてきましたので、金融資産を億単位で持つ人々をたくさん見てきましたが、実はそういう人の中には意外とサラリーマンの人たちの方がはるかに多いのです。ではなぜそうなるのでしょうか?その最大の理由は「収支」にあります。

多くの人はお金持ちになるためには収入を増やすということしか考えていません。しかし、資産形成で本当に大切なのは収入ではなくて「収支」なのです。つまり入ってくるお金と同じぐらい、場合によってはそれ以上に出て行くお金を管理することが大切なのです。

前述のタレントやオーナーといった人達に共通するのは、収入が必ずしも一定ではないことです。オーナーなら事業が当たれば、大きな儲けが出るし、タレントは有名になれば、出演料やCMで大きな収入が入ってきますが、反対に下手をすれば一銭も入らない時だってありえます。つまり「入ってくるお金」がなかなか読めないのです。

一方、「出ていくお金」は、特別に贅沢な生活をしていなければ、ある程度読めるはずでしょうが、タレントなどは仕事柄、生活が派手になりがちだし、商売や事業をしていると設備投資や商品の仕入などの機会には、資金を出さざるを得ません。つまり不安定な収入と意図せざる支出に悩まされ続けることになるのが彼らの生活なのです。

これに対してサラリーマンの場合、収入はずっと安定しています。したがって、支出をきちんと管理することによって、入ってくる収入の範囲内で生活する習慣をつけるようにすれば、派手な職業の人たちよりはずっとお金を残すことは容易なのです。このやり方さえ間違わなければサラリーマンの方がずっと計画的に資産形成ができ、お金持ちになれるという実例を私はたくさん見てきました。にもかかわらず、多くのサラリーマンはなかなか資産形成ができません。これは一体どういうわけでしょう?

この理由は「現在バイアス」という心の罠にあります。これは「人は誰でも目先の楽しいことを優先させてしまう」という心の傾向のことです。たいてい誰でもこの「現在バイアス」が強いのが普通です。そのため、人はどうしても老後のための資金を貯めるよりも遊びや買い物に使ってしまいがちになってしまう傾向があるのです。

サラリーマンの場合、収入はほぼ一定なので問題ありませんが、支出がこの「現在バイアス」によって大きく乱れがちになります。資産形成のために計画的に貯蓄や投資をすべきだと分かっていながら、どうしても目先の旅行や食事などの楽しいイベントにお金を使ってしまうということになりがちです。