「やあ、最近もうかってるかい?」
「ボチボチだね。でも最近、カネの回りが悪くてね」
挨拶代わりの会話として、街の商店街などで昔よく聞いたフレーズだ。まだ大型ショッピングモールなどなく、日用品の買い物といえば商店街という昭和の時代、幼な心に「お金って回るの?」と、5円玉の穴に竹串を突っ込んでクルクル回しながら思ったものだ。
時は平成を超え令和となり、今こうして世界の経済と相場の先行きを予想する仕事に携わると、あの頃の商店街での会話は大変奥深いものだったことを知る。彼ら商売人は机上の理論ではなく、生きた経済学として日常会話でマネーを語っていたのだから驚きだ。
マネーサプライとは、中央銀行と金融機関でつくる“綿菓子”
「おカネを回す」――。お金は中央銀行の負債に計上、言ってみれば借金に近い。金融機関はこれを預金として預かり、同時に他の誰かに貸す。そして、貸したお金はなんらかの支払いに使われ、そのお金はまた誰かの預金として金融機関に預けられ、また別の誰かの貸出に回る。こうしてお金が金融機関を介して回り、総量が膨らんでいく仕組みは「信用創造」と呼ばれる。商店街の店主が言う「カネの回り」とはこの信用創造を指す。
信用創造、少し難しい言い回しだが、子供の頃好きだった人も大勢いるだろう、綿菓子を思い出してみてほしい。信用創造は、綿あめ機の中でグルグルと棒を回して綿あめを膨らませていく、まさにあの様子に似ている。綿あめ機に投入するザラメ、すなわちお金は中央銀行が投入し、クルクルと棒を回すのはそう、金融機関だ。中央銀行による量的金融緩和策(お金を刷って国債を買う)でいくらたくさんのザラメを入れても、金融機関が懸命にクルクルと棒を回さないと、憧れた大きい綿あめ、つまりマネーサプライは増えず経済は成長しない。
なので、クルクルと棒を回すことができるよう、金融機関が元気でいることは経済成長を実現する上で非常に大事なのだ。1990年代、日本の金融機関はバブル崩壊で不良債権が膨らみ元気をなくした。当時、政府は血税を投入し彼らに栄養補給をしたが、これには世論も大変怒った。バブル崩壊で勤めていた会社が倒産し職を失う人が急増する一方で、金融機関は政府からの栄養補給を受け、職は守られたからだ。政府は金融機関優遇だと強烈な批判を浴びた。世論を敵に回せば政治家に明日はないが、それでも政府はやった。金融機関が元気に棒を回せるようにしなければ、経済が成長しないからだ。