新たな報告書で提示された「重要情報シート」とは何か

2019年10月に市場ワーキング・グループが再開され、そうした現状の課題が議論された結果、2020年8月5日に新たな報告書「顧客本位の業務運営の進展に向けて」が公表された。永沢氏は、その趣旨を次のように説明する。「顧客本位の業務運営は、日ごろから顧客と接している販売現場にこそ理解してもらう必要があります。現場レベルで実践してもらうためにも、具体的な案を提示しなければいけないと考えたわけです」。

そこで具体的に提示された案の1つが「重要情報シート」だ。この重要情報シートは商品の特徴や手数料などを、投資信託や保険といった商品の枠を超えて比較しやすくするために、一定の書式を定めて顧客に開示されるもの。銀行や証券会社などの金融商品の販売会社、商品の提供元である運用会社や保険会社などが作成することになる。

報告書にはシートのフォーマットも例示されていて、「金融事業者編」と「個別商品編」の2つに分かれている。金融事業者編は、主に金融商品の販売会社が自社の取扱商品の種類、そのラインアップに対する考え方などを記載する。個別商品編では、商品ごとにリスクと運用実績の他、購入時・運用中に支払う手数料、また運用会社や保険会社との間に資本関係があるかどうかなども記入するようになっている。

「銀行等で資産形成や運用の相談をすると、投資信託だけではなく保険を勧められることも少なくありせん。投資信託と保険で説明資料の様式が異なる点に関して、利殖向けの商品であるならば同じ基準で比較できるよう情報提供してもらわないと、お客さまには分かりにくいという問題意識が市場ワーキング・グループにはありました。そのため重要情報シートの役割は、金融機関の窓口にいらしたお客さまに向けて、投資信託や保険、預金といった法律の枠組みが違う商品に横串を刺すようなかたちで比較できることにあるのです」。

実際に金融機関が使用するときには、最初に重要情報シートの内容に基づいて商品を比較しながら提案を行う。そして商品を絞り込んだ後は、さらに詳しい情報を提供するため、投資信託であれば目論見書などを利用するといった流れがイメージされているという。

ここ数年、金融庁が顧客本位の業務運営を求めてきた中、成果が出た部分はあるものの、「まだまだ課題も多い」と指摘する永沢氏。その解決のために、アウトプットとして出てきたものの1つが重要情報シートだったというわけだ。

もっとも、重要情報シートがあることで個人投資家には結局どのようなメリットがあるのか、やはり気になるところだ。そこで後編では、重要情報シートを利用する恩恵をもう少し深掘りしてみたい。

永沢 裕美子(ながさわ・ゆみこ)氏 Foster Forum 良質な金融商品を育てる会 世話人 東京大学教育学部を卒業後、日興證券(現SMBC日興証券)に入社。アナリスト業務や資産運用業務などに従事後、Citibankに移り、個人投資部の立ち上げを担当。2006年にお茶の水女子大学大学院にて生活経済学を修了。早稲田大学法科大学院にて学び、2012年に法務博士。現在、金融審議会特別委員、国民生活センター紛争解決委員会特別委員、金融庁参事・金融行政モニター委員など幅広く活動している。