“有名無実化”が進む在職老齢年金――すったもんだの末「47万円」に統一
しかしこの制度、近年は実態にそぐわず、“有名無実化”が進みつつあります。
厚生労働省年金局の資料によると、60代前半で働きながら年金を受給している人は2019年度末の推計値で約120万人に上り、その半数弱が在職老齢年金の適用を受けない範囲で勤務しています。
しかし、“予備軍”となる50代に目を移すと、そもそも65歳の誕生日を迎える前に公的年金が受給できるのは1961年4月1日以前に生まれた男性と、1966年4月1日以前に生まれた女性だけです(60歳以降に「繰り上げ受給」を選択した場合は別ですが)。
条件に当てはまる人は60代前半に「特別支給の老齢厚生年金」がもらえますが、受給期間は1~5年と、生年月日によって大きく差が出てきます。
今の50代にはむしろ「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れない人のほうが多いわけで、見方を変えれば、60歳になっても在職老齢年金を気にせず働けるということです。
続いて65歳以上の在職老齢年金ですが、65歳以降も月額ベースで47万円の収入を得ている人となると、企業の役員や経営幹部などごく一部に限られます。つまり、こちらも一般人には関係のない制度ということになります。
在職老齢年金を巡る国会論議では“すったもんだ”がありました。政府は当初、65歳以上の「47万円」を廃止、もしくは「62万円」に引き上げるという案を出しました。しかし、野党から「金持ち優遇だ」と猛反発を食らい、結果として65歳以上は「47万円」のまま、65歳未満については65歳以上に合わせて「47万円」に引き上げる、という形で決着を見たのです。つまり、在職老齢年金は「65歳未満」「65歳以上」といった年齢を問わず、一律「47万円」を基準に判断されることになりました(施行は2022年4月から)。
先の老齢厚生年金の月額が10万円、総報酬月額相当額が30万円の例だと、現行制度では月額6万円の年金が支給停止になりますが、改正後はそのまま受け取れるようになるわけですから、「特別支給の老齢厚生年金」を受給できる人にとってはメリット大と言えるでしょう。
さらに言うなら、これまでは在職老齢年金の適用を受けないために、あえて業務委託やフリーランスの形で仕事を請け負う人もいました。とはいえ、雇用保険や労災保険などの存在を考えると、会社員であり続けるメリットのほうが大きい可能性もあります。今回の改正により、こうした“小細工”をしないで済む方も増えるのではないでしょうか。