投資判断にはデータを欠かさない

「3つの鉄則」2つめは、「投資判断は数字を見て行う」というものです。

株価は刻々と変化しますが、今の水準が高いのか低いのかは後になってみなければ分かりません。それこそ、1カ月後から振り返れば高かったとしても、半年後から見れば安かった、ということもあり得ます。ですから、投資判断は過去と現在と将来の実体経済や企業業績の数字を見て行うことが大切です。

短期的な投資であれば、勢いに乗る順張り投資も良いでしょう。ただ、腰を据えた資産運用を考える場合、今のように割高と感じつつも不思議と上昇が続き、判断に困惑するという状況では、実体経済や企業業績の数字の動きと現在の株価水準を比較してみるべきです。ある富裕層のお客さまは、現在の状況をこのように考えておいでです。

・6月現在、急落前の2月と比較し、先進国主要株価指数は概ね80~90%ほどの水準まで回復している
・しかしIMF(国際通貨基金)などの報告書では今年の世界成長率の見通しを大幅に下方修正し、消費者や企業の景況感は悪化し続けている
・さらに業績の見通しを公表できない企業も多く、今後も下振れが避けられない状況。このような状況での株高は、資産価格が実体経済と比べて過大評価されている可能性がある
・そもそもコロナショック前と株価水準が同じなら、割高度は格段に増していることになる。一般的に、株価は半年から1年先の状況を織り込むとされるが、実体経済や企業業績の回復に遅れが見えると、期待先行の上昇がはげ落ちるリスクが高いのではないか

つまり、株価の上昇に乗り遅れまいとする感情や氾濫する楽観的な情報に振り回されず、実体経済や企業業績の動きと株価の動きを照らし合わせて投資判断を行うことが重要だと言います。

「ぶれないスタンス」の重要性

「3つの鉄則」最後の1つは「資産運用においてぶれないスタンスを持つ」ということです。

中長期的な資産運用は行き当たりばったりではなかなかうまくいかないものです。年間でどれくらいのリターンを目標とするのか、そのために許容できるリスクはどの程度なのか、目まぐるしく変化する投資環境に対応するために資産運用のスタンスは、予め決めておく必要があります。

とはいえ、目標やリスクの許容度はお客さまによって異なるため、その方針はさまざまです。世界のインフレ率を目安に、コストなどを加味して年率4%程度を目標に置く方もいれば、リスク性資産を中心に年率平均7%以上を狙いたいという方もいます。

大切なことは、目標を達成するためにこの局面で必要な投資を、一歩離れて考える客観的な視野を持つことです。もし既に含み益が出ている場合は、今後のリスクに備えて無理をしなくてもいいかもしれませんし、収益性を高めたい場合は有望な分野に絞って、タイミングを分けて投資を検討してもいいかもしれません。

当然ですが、資産運用には良い時もあれば厳しい時もあります。富裕層のお客さまが行っているポイントは、目標に向けたスタンスから逸脱するような投資やリスクテイクはしない、ということです。

株価が割高だなと感じる時は、その根拠に注目し、割高がある程度解消される(株価が下落するか、実体経済が回復する)まで慎重に判断を検討します。決してフルインベスト状態にはせず、常に資金的な投資余力を持つようにしています。運用の資産規模の大きい方ほど運用スタンスは具体的でぶれないと私は感じてきました。

***

いかがでしょうか。投資行動に唯一の「正解」はありませんが、私が見た実際の富裕層のお客さまは、このような3つの鉄則とも言うべき判断基準を持ち、市場の変動にある程度対応できる気持ちと資金的な余裕を常に持っていました。

バブル相場というものは、市場参加者の多くが「バブルではない」と思っていなければ出現しませんし、逆に「今はバブル状態なのではないか?」と危惧する声が高いうちは、大幅な株価下落も起こりにくいとみられています。すでに主張されたり予想されたりしているシナリオは常に現実化しにくいものであり、だからこそ相場はブラックスワン、つまり予期できなかったり想定外のショックに弱いものです。

まさに今のような状況こそ、「3つの鉄則」が生きる時ではないでしょうか。