仕送りより許せなかった妻への言葉

もはや笑い出したくなるくらいの言いがかりだったが、伊織は黙って聞いていた。だが信吾はあからさまに不機嫌なため息をついた。

「いい加減にしてくれよ、母さん。伊織は今まで仕送りのことで一度も文句を言わなかった。家族のためだからって受け入れてくれてたんだ」

「で、でも言い出したのは伊織さんでしょ?」

「母さんが困ってないって分かれば仕送りは減らしてたよ。伊織に言われたからじゃない」

信吾はきっぱりと言い切ったが、一恵はそれでも反論してきた。

「どうして伊織さんの味方ばかりするの。お腹を痛めてあんたを生んだのは私でしょう……!」

「感謝してるよ。だから仕送りをしてた。でももう終わりだよ」

信吾は眉間に深いしわを寄せながら続けた。

「別に母さんが俺よりも義弘をかわいがってることに不満なんてないよ。金を渡していたことも、旅行に行ってたのも好きにしてくれたらいいよ。でも伊織のことを悪く言われるのは我慢できない。そんな人の手助けなんてしたいと思えるほど俺は器が大きい人間じゃないんだよ」

信吾は早口で言い切ると、一恵の反論を聞かず電話を切った。軽く息を吐いた信吾に伊織は声をかけた。

「……大丈夫なの?」

「ああ、心配しなくてもいいよ。あの人なら俺なんていなくても何とかなるよ」

そう言って信吾は何事もなかったかのようにテレビに視線を向けた。きっと信吾もうすうす分かってはいたのだろう。頼られているのではなく、都合よく使われているだけかもしれないということを。

伊織は信吾に携帯の画面を見せた。

「ねえ。ここ、かなり条件がいいんだよ。今度、内見行ってみない?」

伊織の言葉に信吾は笑顔でうなずいた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。