直樹も家計管理に加わることに
数日後、直樹は約束どおり、これまで結衣の立て替え分をまとめて尚子へ返した。受け取った封筒の中身を確認しながら、尚子はようやく1つの区切りがついたのだと感じた。
「母さん、本当に悪かった」
「もういいのよ。返してもらったんだから」
「これからは俺も家計の管理をする。結衣に任せきりにはしないよ」
直樹はそう言って、深く息を吐いた。それ以来、結衣との関係も少し変わった。
「お義母さん、今日スーパーに行きますけど、何かいりますか?」
「ありがとう。でも大丈夫よ。私も近いうちに出かける予定だから」
「分かりました」
以前なら、そこから何気ない話が続いていたかもしれない。だが、今の結衣は、必要なことを話すと静かに去っていく。その距離感に、尚子は最初こそ申し訳なく感じた。同じ家で暮らしているのに、以前より遠慮されている。それでも、「今度は何を頼まれるのだろう」と身構えていたころを思えば、今のほうがずっと気持ちは楽だった。
車の買い替えも、無事に終わった。何度も試乗して運転しやすさや乗り降りのしやすさを確かめ、自分がこれから気持ちよく使えそうな1台を決めた。
「おばあちゃん、新しい車、かっこいいね」
納車された日の夕方、悠斗が窓から駐車場をのぞき込んで言った。
「ありがとう。おばあちゃんも気に入ってるの」
「今度、塾まで乗せてよ」
「いいわよ。帰りに何かおやつでも買いましょうか」
その夜、家族4人で食卓を囲んだ。悠斗が塾で受けた実力テストで上位に入ったことを話すと、直樹はうれしそうにうなずいた。結衣も笑顔で相づちを打ちながら、尚子に料理を取ってくれた。
「これ、お義母さんもどうぞ」
「ありがとう」
何気ないやり取りだが、尚子には、それで十分だった。たとえ前のような気安い関係ではなくとも、もう無理に気を遣う必要はないのだと思える。湯気の立つ温かな食卓には、家族の楽しそうな話し声がいつまでも響いていた。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
