ついに破られた「最後の一線」
決定的な事件は、由香の31歳の誕生日に起きた。
その日、早く仕事を切り上げた由香は「今日くらいは2人で楽しく話したい」と、有名店の高級ショートケーキを2つ買って、弾む心で帰宅した。「お誕生日おめでとうって、一口だけでも一緒に食べてほしい」——それが由香のささやかな願いであった。
しかし、箱を開けた由香を見た健太の表情は、軽蔑に満ちていた。
「は? こんな夜中に砂糖と脂質の塊? 僕の意志の弱さを試してるの? 自分の体型管理もできない上に、僕の努力まで邪魔しないでよ」
健太はケーキを一瞥すると、手で払いのけるように自室へ消えた。バタンと強く閉められたドアの音だけが、静かなリビングに響き渡る。
ぽつんと1人取り残された食卓で、由香は冷えたケーキを見つめていた。涙がぼろぼろと溢れ落ち、止まらなくなる。
(この人は、私を見ていない。私と心を通わせる気なんてないんだ)
由香の中で、何かが完全に弾け飛んだ。静かな怒りが、冷たく澄み切った決意へと変わった瞬間であった。
●夫・健太に夫婦の時間を「無駄な時間」と切り捨てられ孤独感を募らせていた由香。翌日、由香が密かに起こした「ある行動」によって、健太の「自慢の筋肉」を根底から揺るがす、決定的な瞬間が訪れる…後編【「なんで決済が落ちないんだよ!」家族カードを止められた筋トレ夫が錯乱…高収入妻が突きつけた「恐怖の明細書」】で詳説します。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
