繰り返される義母の訪問
昼食の片付けをしていると、また玄関のインターホンが鳴った。モニターに映った理香子の顔を見て、葉月は思わず目を疑った。数日前に来たばかりだというのに、もう次の訪問があるとは思っていなかった。玄関を開けると、理香子は前回と変わらない笑顔で立っている。
「お義母さん……」
「こんにちは。また陽翔に会いに来ちゃった」
「おばあちゃん!」
葉月が返事をするより先に、陽翔が廊下を駆けてきた。
「今日は何して遊ぶ?」
「そうねえ。陽翔は何がいい?」
それからも、理香子は何度も家へやってきた。あるときは陽翔と並んでソファに座り、子ども向けの番組を見て過ごし、また別の日には折り紙を広げ、陽翔にせがまれて何枚も紙飛行機を折っていた。
「おばあちゃん、次はもっと遠くまで飛ぶやつ作って!」
「はいはい。陽翔は注文が多いわねえ」
口ではそう言いながらも、理香子はうれしそうだった。正直、陽翔の遊び相手としては、文句のつけようがない。理香子は、葉月なら適当に負けて終わらせてしまうカードゲームに、根気強く付き合うことさえあった。
ただ、訪問を重ねるたび、彼女の遠慮は薄れていった。
「葉月さん、麦茶いただくわね」
「あ、はい。どうぞ」
いつの間にかキッチンに出入りし、ソファは理香子の定位置になった。陽翔と遊び疲れれば、クッションを枕にして横になることもある。
何より負担だったのは、3人分の昼食を用意しなければならないということだ。
「今日はそうめんでいいですか?」
「私は何でもいいわよ。昨日も麺だったけど気にしないわ」
「……すみません」
食事が終われば皿を洗い、麦茶が減れば作り足す。夕方には、床に散らばったカードや折り紙を片づける仕事も待っていた。
「葉月さんも座ったら?」
「まだ洗い物があるので」
「あとでもいいじゃない。つけ置きしときなさい。あ、そうだ、この前ね」
座れば座ったで、今度は理香子の話し相手になる。
結局、気を抜く時間はない。頻繁に来客対応をしなければならない日々に、葉月は徐々に疲弊していった。
そんなある日、理香子がいつもより大きなバッグを提げて現れた。
「お義母さん、今日は荷物が多いですね」
「ああ、これ?」
理香子がバッグを開くと、中には着替えと洗面用具が入っていた。
「遅くなったら泊まれるように準備してきたの。そのほうが陽翔ともゆっくりできるし」
「えっ、今日泊まるんですか?」
「さあ、どうかしら。夕方になったらどうするか決めるわ」
理香子は軽く笑い、そのまま陽翔と遊び始めた。葉月だけがその場に立ち尽くす。
この先も夏休みが終わるまで、ずっとこんな調子なのだろうか。
しかも下手をすれば食事だけでなく、寝具や風呂の準備まで増えるかもしれない。
「じゃあ、また来るわね」
「おばあちゃん、バイバーイ!」
「バイバイ」
結局、その日は泊まらずに帰っていったが、理香子が置いていった大きなバッグが頭から離れなかった。
●夏休み中、息子・陽翔に会うため何度も訪ねてくる義母・理香子。孫の遊び相手になってくれる一方、来客対応に追われる葉月の疲労は増すばかり。葉月はこの状態がいつまで続くのかと不安を募らせるのだった…… 後編【「面倒見てもらえる分、少しは楽なんじゃないの?」義母の頻繁な訪問に疲弊する妻…夫の一言が嫁姑問題にもたらした「予想外の結末」】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
