義母の来訪で増えていく家事

理香子が紙袋から取り出したのは、赤いスポーツカーのミニカーだった。

「わあ! これ、持ってないやつ!」

「でしょう? 陽翔が好きそうだと思って選んだのよ」

陽翔はさっそく床に座り込み、ミニカーを走らせ始めた。理香子もその隣に腰を下ろし、「速いわねえ」「こっちがゴール?」と付き合っている。

「陽翔、学校は楽しい?」

「うん! 算数でね、足し算と引き算やったよ」

「あら、もうそんなこと習ってるの?」

得意になった陽翔は、指を折りながら簡単な計算まで披露し始めた。理香子は1つ答えるたびに大げさなくらい褒めている。2人の様子を見て、葉月は少しだけ肩の力を抜いた。陽翔の相手をしてくれている間なら、今度こそ一息つけるかもしれない。葉月はキッチンで麦茶をグラスに注ぎ、テーブルの上に置いた。

「あら、お茶だけ?」

ソファに腰を下ろしかけたところで、理香子の声が飛んできた。

「え?」

「暑い中、遠いところから来たんだもの。お茶菓子くらい出してもらえるかと思ったわ」

軽い口調ではあったが、嫌味には違いない。急に来たのはお義母さんでしょう。喉まで出かかった言葉を飲み込み、葉月は穏やかに返した。

「何かあったと思います。見てきますね」

葉月はキッチンへ戻り、戸棚を探した。買い置きのせんべいと小さな焼き菓子を見つけ、皿に並べる。

「こんなものでよければ」

「十分よ。ありがとう」

理香子は満足そうにせんべいへ手を伸ばし、すぐまた陽翔の話に耳を傾け始めた。それからも葉月は、空いたグラスに麦茶を足し、菓子の袋を片づけ、理香子に話しかけられれば手を止めて返事をした。しばらくすると、床に寝そべって遊んでいた陽翔が起き上がる。

「お母さん、お腹すいた」

「さっきお昼食べたばかりでしょう?」

「いっぱい遊んだからすいた!」

理香子が笑った。

「子どもは元気ねえ。私も少し何かいただこうかしら」

葉月は時計を見る。夕食にはまだ早い。

「じゃあ、簡単なものでいいですか?」

「私は何でもいいわよ」

結局、食パンでサンドイッチを作ることになった。冷蔵庫から具材を出している間も、リビングからは2人の笑い声が聞こえてくる。

理香子は陽翔の面倒をよく見てくれている。それは間違いない。だが、彼女のおかげで自分が楽になっているかと聞かれれば、答えは否だ。

「今日は楽しかったわ。ありがとうね」

夕方になり、ようやく理香子がバッグを手に立ち上がった。

「僕も! おばあちゃん、また来てね!」

「もちろん。また来るわ」

理香子は陽翔の頭をなで、機嫌よく帰っていった。玄関の扉を閉めると、葉月は静かに息を吐いた。リビングにはミニカーとブロックが広がり、テーブルには使った皿とグラスが残っている。

「おばあちゃん、また来るって! 楽しみ!」

「そうだね」

満面の笑みを浮かべる陽翔にそう返したが、身体には、どっと疲れが押し寄せていた。葉月は時計を見て深くため息を吐いてから、夕食の支度に取り掛かった。