60歳を過ぎても厚生年金?「取られる」だけではない社会保険

田村さんのように、本来ならば厚生年金、健康保険に加入義務がある人が、会社側の誤認で加入していないというようなことはよくあることです。

一般の従業員の所定労働時間・日数の4分の3以上働く場合などは厚生年金・健康保険の加入対象となり、短時間労働者についても、勤務する企業の規模や週の所定労働時間など一定の要件を満たせば加入対象になります。現在、短時間労働者への社会保険適用も段階的に拡大されています。

そのため、60歳を過ぎたパート、アルバイトの方で、国民年金保険料を払わなくなった人でも、「働いているから厚生年金保険料を払う」ということは十分にあり得ます。

会社側が加入義務を正しく認識せず、年金事務所の調査などによって後から未加入が判明するケースにも注意が必要でしょう。

しかし、田村さんのケースを「毎月3万円も手取りが減った」とだけ見るのも正確ではありません。

田村さんは、それまで国民健康保険料を年間約20万円、月平均にすれば約1万7000円支払っていました。

会社の健康保険に加入すれば、その国民健康保険料は原則として払わなくなります。そのため社会保険料が給与から約3万円引かれるとしても、従来の国民健康保険料まで含めて考えれば、家計にとっての実質的な負担増はそれより小さくなります。

さらに、厚生年金保険料はただ払っているのではありません。

66歳の田村さんが70歳まで厚生年金に加入して働けば、その加入期間と報酬に応じて老齢厚生年金が増えていきます。

65歳以上70歳未満で老齢厚生年金を受給しながら働く人については、「在職定時改定」により、前年9月から当年8月までの加入実績を反映し、毎年10月分から年金額が改定されます。つまり70歳まで待たなくても、働きながら年金額が段階的に増えていく仕組みです。

ここでは仮に、標準報酬月額を30万円程度とすると、厚生年金の報酬比例部分は、単純計算で1年間の加入につき年額約2万円増える計算です。今回さかのぼって加入することになった2年分と、70歳までの4年間を合わせれば6年分。概算で年12万円ほどの上乗せになります。

そして健康保険についても、業務外の病気やケガによって働けず、給与を受け取れないなどの要件を満たした場合、健康保険の「傷病手当金」を受け取ることができます。支給額は原則として標準報酬月額をもとに計算した1日あたりの金額の3分の2相当で、支給期間は通算1年6か月を限度として受け取ることができます。

また、厚生年金加入中に初診日のある病気やケガによって一定の障害状態になれば、要件を満たすことで障害厚生年金の対象になる可能性もあります。

田村さんのように預貯金が少なく、「働けなくなったら収入も止まる」という人ほど、こうした保障の意味はむしろ大きいともいえます。

社会保険料だけを見れば、「また手取りが減った」と負担感ばかりに目が向きがちです。

しかし、いくら払うのかだけではなく、その負担によってどのような保障と将来の年金を得られるのかまでセットで考えることが重要です。