「遺産を多めにもらう権利がある」
潤貴さんのセリフを聞いて、裕規さんは思わず「ん?」と眉をしかめたのだが、それには構わず、潤貴さんは一方的に自分の主張をぶつけていく。
「俺が親父に投資を勧めなければ、遺産がこんなに残っていることはなかった」
「だから俺には遺産を多めにもらう権利、いわゆる寄与分があるはずだ」
寄与分とは、故人の財産の維持増加に特別の貢献をした人に対して多めに財産を渡そうという制度だ。
最初、裕規さんは寄与分という言葉の意味が分からなかったので、呆気にとられていたが、雰囲気で意味を察すると、少し納得してしまったという。
父の財産は亡くなる直前のここ10年ほどの間に、急激に増加していた。
父親は預貯金だけでなく、投資信託や個別の株式、はたまた仮想通貨や金まで保有しており、近年の株高・物価高に乗じて、遺産の額は急激に増えていた。
そして、そのきっかけを作ったのが潤貴さんだったのも事実だった。
潤貴さん父親に「銀行に置いておくだけではもったいない」「投資信託なら比較的始めやすい」「長期で持てば資産形成になる」といった話をしているのを、裕規さんは何度も聞いていたからだった。
とはいえ、裕規さんからすれば、兄・潤貴さんの取り分が増えると、自分の取り分が減るため、そう簡単に納得できる話ではない。
そもそも、父親が投資信託を購入したのは、最終的には父親自身が判断したからだった。潤貴さんはそのきっかけを作ったに過ぎない。潤貴さんは成果を保証したわけでもリスクを負担したわけでもないからだ。
加えて、財産が増えたのも父親の努力ないしは近年の良好な相場によるもの。それが果たして潤貴さんのいう「寄与分」といえるのかと疑問に思ったという。
いつしか裕規さんと潤貴さんは言い合いになっていた。
●兄弟の争いはさらにエスカレート……。後編【「兄さんの取り分が多いのはおかしい」と内容証明を送付…「4000万円の遺産」の取り分で対立した「兄弟ケンカと裁判」】では、寄与分の扱いについてくわしく解説します。
※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。
